ビデオゲームの紹介・レビュー
私がコラムを書いている2009年現在、国内でも海外でも非常に評価されているゲームの開発会社は数多くあります。 たとえば任天堂とかね。 今回は対照的なFPSを作るValve CorporationとInfinity Wardを取り上げて比較してみましょう。 まずは両社の沿革について簡単に。 Valve Corporationは1996年に設立され、1998年にHalf-Lifeを引っさげてデビューをしました。 Half-Lifeは「FPSを変えた、史上最高のゲーム」と言われるほどの評価を受けました。 2003年にはインターネットを利用したゲームのデジタル配信や著作権管理を行うSteamというソフトウェアを発表しました。 Steamは競合するシステムが無く、ゲームのデジタル販売における標準ともなっています。 その後、2004年に続編のHalf-Life2、2008年にLeft 4 Deadを発売しています。 Infinity Wardは2002年に設立されました。 同年にElectronic Artsより発売されたMedal of Honor: Allied Assaultの開発メンバーが独立して立ち上げています。 2003年にはCall of Dutyを開発、2005年にはPCとXBOX360のローンチソフトとしてCall of Duty 2を発売し、会社の名前が広く知れ渡りました。 そして2007年に発売したCall of Duty 4: Modern Warfareは全世界で1300万本以上もの売り上げをあげました。
どちらの会社も、作るゲームは大ヒットをしているか、とても高い評価をされています。 しかもFPSだけを作り続けていることも共通点と言えるでしょう。 他にも共通点はたくさんありますし、もちろん相違点もたくさんあります。 しかしValve CorporationとInfinity Wardのゲーム作りにおいて明らかに違う点があります。 それは、Valve Corporationは目新しく類似性のないゲームを多くつくり、Infinity Wardは目新しさこそ無いものの欠点が少なくて非常に質の高いゲームを作っていることです。 簡単に言えば革新と保守とでもなりますか。 というわけで、代表的なゲームを取り上げてみます。 Valve Corporationは”Half-Life”、”Half-Life2”、”Left 4 Dead”を革新という観点からみます。 Infinity Wardは”Medal of Honor: Allied Assault(厳密には制作会社ではありませんが)””Call of Duty2”、”Call of Duty4”です。 ■Valve Corporation ・Half-Life Half-Life以前のFPSといえばアクションゲームの延長上としての、敵をひたすら倒し続けるゲームが殆どでした。 そこにアドベンチャーゲームのようなストーリー展開、決して強くない主人公が敵を苦労して倒すという要素をもちこんだのがHalf-Lifeでした。 一人称視点を用いてのストーリーテリングは、まさにHalf-Lifeから始まったと言っても良いかもしれません。 ・Half-Life2 Half-Lifeの続編として制作されたHalf-Life2は前作とは違うコンセプトで作られました。 Half-Life2はゲーム側で行われる物理計算を利用したパズル要素や、その場にあるモノを利用した戦闘が特徴です。 現実のように物体がリアルに動く様を見せたゲームは数多くありましたが、ゲームそのものに組み込んだ例は殆どありません。 続編となる”Half-Life2 Episode”シリーズでは、ゲームの最初から最後まで味方NPCが付いてきたり、 さらに複雑化した物理パズルがプレイヤーを待っています。 また、外伝的な位置づけの”Portal”も物理エンジンを利用したパズルが特徴的なゲームです。 ・Left 4 Dead Left 4 Deadはゲームモードを「COOP(協力プレイ)」だけに絞ったFPSです。 COOPモードは普通のパッケージゲームのオマケとして収録されていることはあれど、こうして専用のゲームが発売されることはありませんでした。(過去にはあったかもしれませんが、Left 4 Deadほど高い完成度のゲームは無かったと言えるでしょう) バランスを非常に重要視して作られたこのゲームは、敵の出現がゲームをするごとに変化する”AI Director”システムが非常に優れています。 COOPと言えば飽きてしまいがち、バランス崩壊しがちですが、上手く調整しています。
■Infinity Ward Medal of Honor: Allied Assault Medal of Honor: Allied Assaultは第二次世界大戦がテーマです。 映画のようなスクリプト(台本)を駆使した演出や銃声などの音楽にこだわっています。 演出重視で自由度が少ないゲームデザインは、当時としては多少は画期的だったのかもしれませんが、それほど特筆すべきことではありません。 このゲームを作った後に、主要なメンバーが独立して立ち上げた会社がInfinity Wardです。 Call of Duty2 Call of Duty2はXBOX360の立ち上げとほぼ同時に発売され、非常に高く評価されました。 第二次世界大戦に参戦する「戦場の一兵士」としての感覚を味わえるように作られています。 グレネードによる爆発の表現や、戦場に飛び交う銃弾の音、そして常に味方が周りにいて怒号を交わすという演出には、他のどのゲームよりも戦場の臨場感があります。 映画のような演出よりも、戦場を再現することに重点が置かれています。 Call of Duty4 舞台を架空の現代に移し、映画のように引き込まれる演出を大幅に追加したのがCall of Duty4です。 ゲーム中で使われている手法は、それまでのシリーズで使われていたものとまったく同じです。 そのかわり、非常にかっこよくて燃える演出へと進化させています。 あまりにも劇的な演出は世界中の人々を魅了しました。 マルチプレイ(対戦)も非常に人気があります。 とは言っても目新しい要素は存在せず、他のゲームから取ってきたような要素を煮詰めたものとなっています。
Valve CorporationとInfinity Wardのどちらもゲームでしか成しえない体験を重視していますが、方向性が少し違います。 革新と保守という意味は既に見てきたので、少し違ったところから見てみましょう。 Valveの特徴は、ゲームならではの双方向性(インタラクティブ性)を重視しています。 Half-Lifeは自分から進んで事を起こしていくタイプのゲームでした。 イベントはいくつかあるものの、基本は自分がやったことが目の前で出来事として現れていました。 Half-Life2は重力を使ったパズルでした。 いわば自分で試行錯誤してやり遂げていくゲームです。 Left 4 Deadについては味方同士で協力することが双方向性の面白さとなっています。 ゲーム自体のボリュームは少ないものの、プレイするごとに違うゲームプレイになるようにしています。 ところがInfinity Wardはゲーム側から一方的に与えられる情報がほとんどです。 どのゲームについてもミッションとして「あちらへ行け」「ここを死守せよ」というものばかりなのです。 人によってはこういうところを非常に毛嫌いしていますが、Infinity Wardは演出を楽しませるために敢えてこういう作りにしているのだと思います。 そしてInfinity Wardの絶妙なところは、自分が操作できないムービーシーンを極力入れていない点にあります。 様々なイベントが起こりつつも、プレイヤーは自分で操作して動き続けることが出来ます。 かつての日本のRPGは美麗なムービーシーンを入れることで演出を際だたせていましたが、これは自分で操作できる場面は殆どありませんでした。 しかし、Infinity Wardは自分で操作しながらイベントを展開させる方法をとっています。 だから”演出がうざったい”と感じる人はそれほど多くないのです。 見方を変えると、Infinity Wardは多少なりとも双方向性を意識しているのだと思います。 それでも映画のような大規模演出を組み込むために、強引に演出を行っています。 こうした表現はゲーム的な表現方法とは違い、他の分野から影響を受けています。 影響を受ける分野は映画、小説、劇、絵画、なんでもよいでしょう。 つまり、他の分野のいいとこ取りなのがInfinity Wardの作るゲームなのです。 私は「ゲームはゲームとしてあるべき」のような考えはそれほど持っていません。 餅は餅屋であることは確かに正しいのですが、他から影響を受けることも、そしてゲーム自身が変わっていくことも正しいと思っています。 Valve Corporationはゲームらしさを求めていく方向、Infinity Wardは他の分野から影響を受けていく方向、どちらが正解と言うことはないのです。 それぞれが違った良さを生み出し、私たちを楽しませてくれることを期待しましょう。 |