レビュー
美しい世界を味わうアクションゲーム
ワンボタンアクションを楽しむ
『プリンスオブペルシャ2008』は美しい世界を堪能するために作られた。
簡単な操作で、絵を見るかのようなグラフィックで描かれた世界を存分に味わえる。
途切れることなく続くシームレスな世界は、ロード時間という現実に引き戻される瞬間を無くしている。
戦闘でも主人公がカッコイイアクションを行う。
ストーリーは大したものではないが、ヒーローとヒロインは親しみの持てる性格をしていて、愛着を持ちやすい。
しかし、試行錯誤がまったく無い。
よくできたゲームだが、遊んでいて面白いかどうかはまた別の話だ。
ワンボタンで様々なアクションが行える点は、プリンスオブペルシャシリーズの伝統を受け継ぐ要素だ。
もはや四作目となったせいで目新しさはないものの、今作『プリンスオブペルシャ2008』ではヒロインと共に行動するぶんだけアクションが増えている。
同時にアクションのモーションも増えた。
例えばヒロインとぶつかったときや位置を入れ替えたときにも滑らかに動く。
モーション数がたくさん用意されているおかげで、綺麗に動くのだ。
とはいえ、アクションは増えたと言っても、押すボタンがちょっと増えた程度で何にも難しくはない。実に簡単だ。
『プリンスオブペルシャ2008』では、ボタンの複雑な組み合わせを考える必要がないのだ。
要は、画面に表示される記号(Aボタンを押すと進める、Bボタンを押すと進める)を読み取って、タイミングよくボタンを押していくだけでゲームはクリアできる。
主人公やヒロインや実に滑らかでかっこいいモーションをしてくれる。
プレイヤーは簡単な操作で複雑な動きを行える。
ゲームをやらずに見ているだけでも感心できるくらいだ。
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見てるだけのほうが楽しめる?かも
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あまりにも工夫できる余地がない
ところが『プリンスオブペルシャ2008』の欠点がワンボタンアクションに見え隠れしている。
あまりにもワンボタンで行える滑らかなアクションを追求しすぎたために、別の選択肢や攻略法がなくなってしまった。
例えばAからBという場所に行くとする。
『プリンスオブペルシャ2008』では行く方法がひとつしか用意されていないことが多い。
道に沿って主人公が進むのを見て、「A」とか「B」のボタンを押すだけで勝手に進んで行ってしまう。
プレイヤーはどこに進むのかを考えることなく、ただただ見ているのみだ。
戦闘も同じように、工夫する必要がない。
『プリンスオブペルシャ2008』の戦闘はつまるところ、敵の攻撃をしてくるタイミングを覚えるだけでクリアできる。
敵が攻撃するモーションに合わせてガードして敵の攻撃を弾き、そして敵のカウンター攻撃を食らわせる。
ここには、敵と主人公の位置取りを考えたり、コンボを狙ったりする必要性がない。
どんな敵が現れようともやることは一緒だ。
敵の攻撃を弾き、カウンターをするだけだ。
結局『プリンスオブペルシャ2008』は、どこへ行ってもひとつのボタンを押すだけで進めてしまうゲームなのだ。
場所が変わっても、敵が変わってもやることは全く変わらない。
しかも攻略方法がただ一つしか存在しない一本道ゲームなので、二重の意味で単調さに拍車をかけている。
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滑る。かっこいいぜ
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過去作との違い
実は上記の「工夫の余地がない」欠点はPS2世代のシリーズでも見られた。
しかし単調さを感じさせないような仕掛けがあったので、『プリンスオブペルシャ2008』ほどの一本調子にはなっていない。
そこで以下は過去作と今作を比べることで、『プリンスオブペルシャ2008』がどれだけ単調になっているかを浮き彫りにする。
まず戦闘シーンの数量が違う。
過去シリーズは度々戦闘があり、また敵が複数体出てくることもあった。
敵によって効果的な攻撃方法も違っていたので、起伏がでていた。
一方の『プリンスオブペルシャ2008』はと言えば、戦闘の絶対数が少ない。
絶対数が少ない上に、どの敵も同じ攻略法が通用してしまうため、すべての敵は外見だけ違うと言っても差し支えないくらいだ。
次に謎解きや、次に行く場所を探すための試行錯誤の多寡だ。
もうおわかりの通り、過去作は謎解きが多い。
スイッチAを押して、次にBを押して、最後はDを押して・・・と言った謎解きが多かったのが過去のシリーズだった。
次にどこへ行けばいいのかがわかりにくかったり、ダミーのルートが用意されてもいた。
しかし『プリンスオブペルシャ2008』には謎解きの絶対数は少ない。
もちろんダミーのルートや惑わせる仕掛けなんてものはない。
プレイヤーは道に沿って進むだけでよくなった。
余計なものが排除されてスマートになったとも解釈できるが、むしろプレイヤーがゲーム中に何も考えなく済むようになった弊害の方が大きい。
『プリンスオブペルシャ2008』をやっているときは何も考える必要がないからだ。
画面にあわせてボタンひとつ押すだけになってしまった。
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謎解きが減った分は「光の玉集め」をする。「光の玉集め」が面白くない理由は以下に書いてある
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最後はタイミング合わせの有無だ。
私が思うに、ここが『プリンスオブペルシャ2008』の最大最悪の欠点である。
大昔はプリンスオブペルシャと言えば難しいゲームとしても知られていた。
凶悪なトラップや敵がワラワラいたゲームだったのだ。
PS2世代からはずいぶんと簡単になったものの、とりわけ『ケンシノココロ』はトラップ命のゲームだった。
つまりトラップを使った一発死はシリーズお約束であった。
ところが『プリンスオブペルシャ2008』ではトラップがずいぶんと少なくなった。
ここで注意してほしいことがある。
「トラップによる一発死」の減少は表面的な事柄であって、本質は「トラップをやりすごすためのアクション」がなくなってしまったために『プリンスオブペルシャ2008』の単調さは助長されている点にあるからだ。
PS2世代のシリーズでトラップをやり過ごして先に進むためには、トラップが抜けられるタイミングを見計らって行動をする必要があった。
言い換えれば、トラップの動きを見極めてタイミング良く進んでいくことが重要だった。
これによって、単に進むだけになりがちがゲームの展開にメリハリがでていたと言える。
敵やトラップのタイミングを見極めるのはアクションゲームの面白さそのものであった。
しかし『プリンスオブペルシャ2008』には、そのような面白さを作っていたはずのトラップがなくなってしまった。
以上の三点、戦闘の少なさ、謎解きの少なさ、トラップの少なさが、移動するだけのゲームを作ってしまった。
更に厄介なことに、『プリンスオブペルシャ2008』では一回クリアした場所(ステージ)をもう一回探索しなければならない。
それが悪名高い「光の玉集め」である。
一つのステージをクリアした後、「光の玉」を集めるために、浄化された土地を探検するのは別に悪いことではない。
『プリンスオブペルシャ2008』で問題なのは、浄化された後の土地にはスリリングなトラップも、緊張感のある戦闘も、頭を悩ます謎解きもないからだ。
そこにあるのはルートに従ってボタンを押して進んでいくだけだ。
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トラップが本当に少ない。これのせいでどこへ行ってもやること同じになってしまう
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世界の設定
そこまでして『プリンスオブペルシャ2008』は何を実現したかったのだろうか。
おそらく
美しい世界そのものと、主人公達のアクロバティックな動き、愛着のもてる二人(ヒーローとヒロイン)のやりとりだ。
映像はスクリーンショットを見てもらってもわかるとおり、コンセプトアートの世界をそのまま再現したかのようだ。
実写を目指すような映像ではない。
キャラクターの輪郭は黒く縁取られていて、見た目が浮かび上がってくるように作られている。
世界も筆で塗ったかのような色合いと、輪郭がややぼけた感じが実写とはひと味違う印象を与える。
人の手で作られたような、有機的で血が通っている絵柄だ
そんな世界を楽しむために、余計な難しさを捨ててひたすらルートを進むだけのゲームとして作られたのだ。
フォトリアリスティックなゲームとは違う方向性を示している。
ヒーローとヒロインは、つかず離れずの微妙な関係だ。
ゲーム中の会話は心が通っているのかいないのか、それとも嫌っているのかいないのか、まったくよくわからない。
嫌みを言ってからかったりするぶんには仲がいいのかよくわからない。
だが、ベタベタしないところがいい。
二人とも彫りが深いものの無国籍な顔立ちで嫌みがなく、性格もひねくれていない。
よく見てみるとゲーム中ではヒーローがヒロインをお姫様だっこしたり、見つめ合ったりしているので、本心は通い合っているのわかる。
エンディングの入り方も、ただ単にスタッフロールを流すだけになっていない。
そういう意味では、
統一された雰囲気は実に素晴らしいと言えるだろう。
ゲームオーバーになって画面がぶつ切りにならないようにしているのも、ロード時間がないのも、世界の統一感を演出している。
ただ一つ欠点があるとすればヒロインの声に声優ではなくて(テレビや映画の)俳優を使ってしまったこと。
俳優は、目の動きや手足の微妙な動きで演技をする。
舞台俳優ならば、全身で大げさに動く。
声優はそれをすべて声ひとつのみでやらなければならない。
こういうのはどれが優れているかというわけではなく、演技をする人と見る人の距離感や媒体(メディア)の関係によって左右されている。
向き不向きの問題である。
声を当てるならば本職に任せておいた方が良い。
同じことは映画やドラマのキャストにも言える。
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光の玉を集める
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これはライト層向けなのか?
よく「ライトユーザー向けに調整された・・・」などと言われることは多いが、『プリンスオブペルシャ2008』はそういう視点では語り得ない。
簡単にすればゲームをやらない人たちでも楽しめるというのは誤った認識である。
ゲームというのは簡単か難しいか以外にも、ゲームらしさをはかる指標がある。
『プリンスオブペルシャ2008』の場合で言えば過去シリーズから取っ払ってしまった、「タイミング合わせ」である。
飛び出すタイミングを考えたり、トラップの性質を見極めるのが面白いのだ。
楽しく感じるのに上手い下手は関係ない。
ただたんに画面上のキャラクターを動かすだけでは楽しいわけがないのだ。
そこに「楽しみを与えてくれる」何かがあってこそ、ゲームは面白くなり、ゲームらしさは増す。
プリンスオブペルシャはタイミングを合わせたり、色んな謎解きやトラップがあるからこそ面白い。
美しい世界をみせるために色々な要素を取っ払ったのは良しとしよう。
しかし、「楽しさの元」まで削り取ったのはやり過ぎである。
あまりにも削りすぎてしまった結果、画面に表示される標識(Aボタンを押せ!など)に従ってゲームを進行させるだけのゲームが生まれてしまった。
それが『プリンスオブペルシャ2008』である。
私はQTE(クイックタイムアクション)が好きではない。
ただの反射神経勝負には、プレイヤーが関与する余地がないからだ。
『プリンスオブペルシャ2008』はQTEらしきものが詰まったゲームだ。
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デザインはよくても
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