レビュー
完璧なゲーム。3Dゲームの総決算
真摯な作りに乾杯
『アンチャーテッド2』のコンセプトは前作から引き継がれている。
一つのゲームとしては目新しい要素を何ら搭載することなく、並外れた完成度の高さを目指して作られた。
それまでの発売された名ゲームのシステムを取捨選択し、映画のようなカメラワークを用意している。
したがって独創的な手法がまったくないゲームでもある。
にもかかわらず、突出した完成度の高さは他のゲームを圧倒する出来映えだ。
そこがアンチャーテッドシリーズ「らしさ」でもある。
「面白いゲームとなる要素は過去のゲームで出し尽くされているので、それを組み合わせていくことですばらしいゲームとなりうる」と言ったのは誰だったか忘れたが、『アンチャーテッド2』は同じような考えのもとで作られている。
何をゲームに取り入れるかを選択する慧眼、雑多な要素をまとめ上げる開発力、そして資金があってこそアンチャーテッド2は生まれた。
まさに莫大な金を膨大な投資で回収するハリウッド的なセカンドパーティ(サテライトカンパニー)のパワー(金や人的資源)や余裕のなせる技である。
もちろんこういったゲームが嫌いな人は多いのだが。
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ステルスシーン
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色彩豊かなグラフィックスの魅力
『アンチャーテッド2』でひときわ目を引くのがグラフィックスの美しさだ。
明るくて色彩豊かなだけでなく、見せ方も今までのゲームとは違う。
私が『アンチャーテッド2』で特に評価したいのは映像を楽しませている点にある。
今までのゲームは「どうこのすばらしいグラフィックス。すごいでしょ?」と言っているだけで、プレイヤーを楽しませようとはしていなかった。
それは例えばPCゲームのFPSが最高の映像美を実現しつつも、ゲーム内世界の見せ方をあくまでプレイヤーにゆだねていたからである。
三人称視点ゲームの『アンチャーテッド2』は、カメラワークがゲームによって行われる。
つまり、もっとも映える視点にカメラが位置するのである。
これだけではほかのゲームとかわりはないが、『アンチャーテッド2』は非常に凝ったカメラワークでわざと引いて見せたり、近寄ったりする。
ゲーム内のシチューションも南国のジャングル、遺跡、列車、雪山、・・・とひっきりなしに変わるので飽きさせない。
そして『アンチャーテッド2』にはカラフルな場面な場面が多い。
色彩を押さえることで美しく魅せる手法をとっていないのは好感が持てる。
加えて、実在の街をモデルにしているだけあって家々の細かいところや小物まで精細に描かれ、さらにそれが物理エンジンでホンモノのように動く。
わざわざ物理エンジンのすごさを見せるシーンまで用意されている。
映像についてまとめれば、『アンチャーテッド2』はPS3最高レベルのグラフィックスを楽しませるように、様々なシチュエーションやイベントを盛り込んでいるということになる。
しかもロード時間は皆無でストーリーは冒険譚の格好をとっているため、いろんな場面が出てきても不自然さを感じさせない。
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見ているだけでワクワクする
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前作からの改良点
キャラクターは前作にもまして個性的になっている。
前作はポリゴンポリゴンしていた造形もだいぶんリアルになった。
主人公達の顔は声優の顔を元にしてモデリングしているためか、キャラクターの顔がかなり実際にいそうな感じだ。
それほどデフォルメを行っていないと言えばそうなのだが、『アンチャーテッド2』が映画を模していると考えるならば現実の人を元にするのには意味がある。
マネキン人形が映画を行ってもそれは人形劇にしかなり得ない。
しかし実写のようなキャラクターが動けば、それは紛れもなく「映画」に近い。
映画風のゲームをコンセプトとする『アンチャーテッド2』は実写に近い、いわば個性的ではないグラフィックスを選択する意味があるのだ。
そして相変わらず愛嬌のある主人公たちの性格は健在である。
どっちかというと頼りない言動は多いのだがやるときはやるタイプの主人公と、勝ち気な言動が多い二人のヒロインの掛け合いは見ているだけで面白い。
主人公が崖の上を行くときに独り言を発するのも性格をよく表していてほほえましい。
かけ声も細かなところまでされている。
ストーリーについて、『アンチャーテッド2』は満点は与えられないが高い水準にある。
秘宝を追うメインストーリーに、敵と味方が入り混じるサスペンス調を織り交ぜ、二人のヒロインとの恋模様(?)まで描いている。
ぜひストーリーをより深く味わうために1の『エルドラドの秘宝』からやってほしいぐらいだ。
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メモ帳の紙の感触もすごい
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好みが分かれそうなところ
ゲームの内容は前作に引き続き、TPSの比重が高いアクションゲームである。
『ギアーズオブウォー』っぽいTPSに、『プリンスオブペルシャ』的なアクション、さらに今作から『スプリンターセル』のようなステルスが加わっている。
ただしこのステルス要素は使える場面が非常に限定されているため、期待はずれである。
使える場面ではかなり有用なのも事実なのだが、ほとんどの場面で使えない。
だから最終的には銃撃で敵を排除する必要がある。
『アンチャーテッド2』でちょっと残念なのはここである。
いろいろな要素を組み合わせた配意が活用する場面が少なめなのはもったいない。
ほかの要素については、一流ゲームからそのまま引っ張ってきたので全く問題がないレベル。
よく研究してあると感心するぐらい元のゲームの良さを生かしている。
だが、やはりこのあたりは好みが出る。
「アンチャーテッド2はただのパクリだ」と指摘されても開発者は反論する手立てはなく、人によってはアンチャーテッド2を独自性のかけらもない継ぎ接ぎだと喝破するのも、それは正しい。
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どこかで見たことあるものが多い
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よくもわるくもアメリカのゲーム
このような側の視点に立てば、アンチャーテッド2は未だにTPS中心、換言すると銃中心のアメリカ的、西洋的な考えから抜け出せていないとも考えられる。
照準に向かって銃を発射して敵を倒すというゲームは、身近に銃のない日本人なら考えもしなかった。
そこにアメリカの日常的な価値観に近い銃を使ったFPSが生まれた90年代半ばのことである。
『アンチャーテッド2』でも平気で銃が使われている。
いくら難易度を下げたモードを用意してユーモアたっぷりのキャラクターを用意しようとも、最後は「銃」である。
さらによくよく考えてみればトレジャーハンターである主人公たちが秘宝を探すというのも、かつて存在した文明の遺産を勝手に掘り起こし、闇マーケットで売っぱらうというトンでもない話である。
だけどアンチャーテッドは1も2も共通して、財宝の力が不必要に使われると使用者は酷い目に遭うようにストーリーが展開している。
ある意味「あるべき場所へ」戻っているから、まだマシな方だろう。
制作者がそこまで考えていたかどうかはわからない。
まあとにかくFPS・TPS中毒からアメリカのゲームメーカーが離れることは難しいだろうな、とだけわかってもらえればいい。
どうしてここまで綿密なゲームなのに銃の扱いが大きいのか、というのは私が日本人だから不思議に思うだけで開発者のアメリカ人にはわかってもらえないのかもしれない。
『アンチャーテッド2』は典型的な要素を盛り込んだゲームなのだから、開発国のアメリカ人にとってはごく普通のことなんだと思っていよう。
ここ読んでる人もそう思っておいてください。
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TPS!TPS!
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列車シーンのすごさ
話を元に戻す。
『アンチャーテッド2』で一番のハイライトシーンは列車の場面であると思う。
列車の中で戦闘が行われるというのは古くからゲームで多用されているシーンだ。
その中でも『アンチャーテッド2』は抜群にすごい。
意図的にカーブするシーンがもうけられており、戦闘中に視点が右へ左へ揺れて照準を合わせにくくなっている。
これは照準を合わせるTPSというゲームジャンルならではのおもしろさを生み出している。
そして列車シーンならではの、風景の移り変わりがこれまたすごい。
昔のゲームなら同じ風景が連続するものだが、『アンチャーテッド2』はかなり長めの尺の風景を何パターンも用意してある。
最初はジャングルからトンネルに入り、最後は雪山である。
似たような風景が続かないようになっているので、私の頭の中では「どんな処理が裏でされているんだろうか」と不思議でしょうがなかった。
同じコンセプトのカーチェイスシーンもゲーム後半に用意されており、制作者はよほどこのシーンが気に入っていたに違いない。
カーチェイスシーンではいくつもの車を飛び移る、「現代版八艘飛び」をお手軽に味わえる。
操作は難しくもなく、微妙な操作もゲーム側で行ってくれる。
ここも、どんな処理がされているのか知りたいくらい複数の車が入り乱れているハイライトシーンだ。
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列車のシーン
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映画とゲーム融合かくあるべき
ゲームにとって映画は目指すところなのか、という問いはここ10年以上繰り返されてきた。
映画ファイナルファンタジーの失敗などで見えてきたのは映画そのままの再現ではいけないというごく当たりまえのことであった。
ここでゲームならではの双方向性(インタラクティブ性)と映画のような物語性の両立というとんでもなく難しい問題が出てくることになる。
ムービーパートを増やして語らせる方法もあれば、ゲームらしさを意識して一人称視点での没入感を高めたゲームもあった。
どちらにしろ面白いストーリーとゲームを一度の提供しようという目的は同じである。
『アンチャーテッド2』はこうした数多くのゲームの到達せんとしてきた境地にたどり着いた初めてのゲームである。
ここまで簡単で楽しくゲームをさせながら過不足なくストーリーを伝え、プレイヤーが主人公のキャラクターと同じ体験を出来たゲームは他に類を見ない。
ひときわすばらしいのは、何十何百回もテストプレイをしたおかげで生まれたユーザビリティである。
難しそうな場面でもすんなりと答えが浮かぶパズル、次へ行く場所への扉や出っ張りの位置など不思議なくらいプレイヤーは正解が「わかる」のである。
いい加減な操作をしてもすぐに死なないように絶妙な補正がされてもいる。
そして時間の使い方もうまい。
ムービーシーンに切り替わっても、自分が動かしたくなるときに終わってくれる。
逆に一息つきたければ一息つけるようになっている。
おまけに仲間を肩車して逃げるシーン、崩れ落ちる建物で危機一髪となるシーンのような、劇的な展開を体験させることも忘れていない。
このシーンたちはもちろん、インタラクティブ性として大事な自分で動かすシーンである。
一人称視点のゲームならばなかなか状況の判断がしにくいために三人称視点の良さが際だっている。
『アンチャーテッド2』はこれまで作られてきたゲームの良いところを再点検し、新たな高みへと上り詰めた希有なゲームだ。
決して斬新さはないが、インタラクティブ性としてのゲームとストーリーテラーの極地としての映画の関係を対立させることなく共存させている。
間違いなく今までのゲームについて一区切りを打ったゲームである。
それは作品というよりも、むしろ、工業製品のような規格化された商品としてである。
日曜日の夜に家族で楽しくハリウッド映画を見ていたような感覚を、そのままゲームにしたような感覚が『アンチャーテッド2』にはある。
楽しく遊んで、スッキリして、次の日はまた日常生活に戻っていく。
人生を変えるような重さはまったくなくて非常に軽いゲームだが、その軽さ故に『アンチャーテッド2』はどのゲームとも違う感覚を呼び起こしてくれる。
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主人公のネイトはどこかの海外アンケートによると「最もセクシーな男キャラクター」だそうだ。
確かにセクシーだな。イケメン!って感じじゃないけど。
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