レビュー
統一された設定に手堅い出来、しかしチグハグとした点も
『シンギュラリティ』の表現しがたさ
表現しにくいゲームだ。
どこかで見たことあるような要素を組み合わせて丁寧に作っていったら出来上がったといえば無粋だろうか。
『シンギュラリティ』の評価を著しく下げているのは、面倒なアイテム拾いだ。
マップあちらこちらにアイテムが大量に置いてあるため、幾度もアイテムを探しにマップに置かれた箱やロッカーに向かってアクションボタンを押さなければならなくなっている。
最初のうちは楽しいものの、何度かやっていくうちにただの単純作業となってしまう。
昨今のゲームで使われているような、流れるように場面が変わりアイテムを入手することがない。
そしてボイスレコーダーやノートも大量に置かれている。
これはストーリーを重層的に見せるためのものだ。
レコーダーを再生したり、死に際に書かれたノートをみて、かつてそこを襲った事件の状況を知ることができる。
ずいぶんと時代錯誤な演出方法だと私は思う。
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こういった演出もあるが、実は飛ばしても何ら問題がない
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柔軟に遊べる
ではなぜこのような手法を使ってストーリーを見せているのだろうか。
2種類いるプレイヤーの好みを満たそうとしたからだ。
ストーリーはどうでもいいからさっさとクリアしたアクション派と、ストーリーも楽しみながら腰を据えて楽しみたいじっくり派のニーズにあわせている。
レコーダーを聞かなければさっさと進められることができる一方で、レコーダーを逃さず聞けば時間はかかるものの雰囲気を楽しめる。
実はストーリーの演出だけでなく、アイテムの置かれ方・難易度のバランスもこの二つのタイプに合わせて作られている。
『シンギュラリティ』はかなり簡単な部類に入るゲームだ。
難易度をハードにして、更にパワーアップ・レベルアップを制限してでも楽勝にクリアできてしまう。
言い換えればマップのあちこちに置いてあるアイテムを無視して進めても何ら問題ない。
難しく遊びたければアイテムを無視すればよいし、ゆったり遊びたければアイテムをセッセとかき集めていけば良い。
このように考えると意外にも『シンギュラリティ』は合理的な設計になっているのだ。
ところが不幸にも『シンギュラリティ』は重要な点を見逃している。
「縛りプレイは遊ばれない」という事実をだ。
初プレイからアイテムを無視したり、パワーアップをしないで遊ぶ人はどれだけいるのだろうか。
大抵の人はレコーダーを起動し、ストーリーを追いつつ、パワーアップして遊ぶだろう。
「縛りプレイ」は2回目以降の再プレイをする人のためのものである。
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普通に戦ったら強いはずの敵も、主人公がパワーアップした後はただの雑魚
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『シンギュラリティ』はホラーゲームではない
私自身『シンギュラリティ』の「縛りプレイ」をやったのは2週目であるし、2週目に『シンギュラリティ』の面白さを再確認している。
先ほどからレビューしてきた『シンギュラリティ』の本当の姿と、普通に遊んだときの姿は全く異なるのである。
ここに『シンギュラリティ』の欠点が潜んでいる。
本来はパワーアップの可否を自分で決めることによって、柔軟な難易度で遊べるゲームなのだが、そうして遊ばれることは絶対にないのだ。
したがって、多くの人は『シンギュラリティ』を「アイテムを拾うのが面倒で、難易度は簡単すぎて、平凡なゲーム」だと感じてしまう。
本当の遊ばせ方をプレイヤーに提示できていないのがダメなのだ。
これは序盤の高い難易度が大いに関係していると思われる。
『シンギュラリティ』の序盤はホラーゲームっぽい雰囲気だ。
プレイヤーの持つ銃弾は少なく、銃の威力の低く、下手すると行きづまってクリア不可能になってしまうぐらいにシビアに作られている。
序盤の難易度を経験した後、プレイヤーは「いつかまた序盤のように難しくなるかもしれない」と考え、能力をパワーアップしてしまう。
パワーアップするためにはアイテムを拾うことが必要で、結果として難易度が低くなる。
実際は中盤も過ぎると難しい場面が訪れることはない。
『シンギュラリティ』はシビアな難易度のホラーゲームではないのだ。
一部にそのような紹介はあるが、正確な表現ではない。
こうなるとそもそもパワーアップ要素は要らなかったのではないか、という疑問点も浮かび上がる。
しかし最近のゲームらしさを追求したからパワーアップ有りにしたのだと考えられる。
とはいえ、そのくせに古くさいレコーダー探しも取り入れられており、どうもチグハグとしている。
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この敵きらい
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プレイヤーを楽しませるための仕掛け
斬新なシステムに恵まれていないとはいえ、ゲーム自体は非常に丁寧に作られていて、いわば職人芸的でもある。
プレイヤーを飽きさせないような展開にあふれている。
序盤のホラーのような雰囲気から、特殊能力を手に入れることで一気に視点が広がる。
それまではただ単に銃撃をするだけで敵を倒せていたが、能力を使うことで敵を倒すバリエーションが増えるのだ。
ストーリーも本筋が見えてくる。
『シンギュラリティ』のエンジンがかかるのは中盤以降と言えるだろう。
中盤以降も様々な仕掛けが待ち受ける。
新たな特殊能力を得られれば、その都度謎解きなどの、新たな特殊能力を生かすシチュエーションが連続するように作られている。
どの特殊能力も最後まで使う場面に恵まれており、ゲームはよく考えて作られている。
ボス戦、謎解きではちょっとした機転を利かせなければならないスパイスを、プレイヤーは楽しめる。
特殊能力の燃費が悪いため、銃を使わなければならない場面が多い。
そのぶん武器は個性的なものが揃っていて、差別化されている。
使うだけでも楽しいというのはまさにこのことだ。
特にスナイパーライフルやSeekerという特殊銃は、武器自体にスローモーション能力が組み込まれている。
この二つは使っていて面白い。
ゲームバランスと新奇さを別にすれば、『シンギュラリティ』はとてもよくできたゲームである。
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エンディングは三通りのマルチエンディングになっている
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どういうゲームかを表しにくいあいまいさ(あいまいさが良い、ということも考えられるが)
『シンギュラリティ』は表現しにくいと最初に述べた。
その理由は新規要素に乏しい一方で、手堅く作られていて、よくまとまっているから、何から言及すればよいのかがわかりにくい点にある。
言い換えると、『シンギュラリティ』とは何かを一言で表現できないところが短所だと言えないだろうか。
どんなゲームでも「主題」がなければ散漫になってしまう。
アクションさせるのか、アドベンチャーさせるのか、サバイバルホラーさせるのか、どれにしても中途半端でチグハグとしている。
しかし『シンギュラリティ』は面白い。
これは確実に太鼓判を押せる。
最初から最後まで似たような場面が出てこないので、デザイン・マップはプレイヤーをまったく飽きさせない。
アドベンチャーは簡単だがやや工夫がいる程度で、私としてはゲームに求められる必要十分を満たしていると思う。
武器や特殊能力を使うときの演出は華やかで、『シンギュラリティ』の世界はSF的なユニークさがあって探検のやりがいがある。
主人公が起こした行動が世界を変え、徐々に明らかとなる真実、そして最後に主人公が決定的な選択をする。
何も新しくはないし、ややバランスに欠けるが、手堅いゲームだ。
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うぉぉぉおおぉおおぉお?
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