レビュー
コンセプトは分かるが、手触りが良くない
ギアーズ風の習作?
どこのジャンルのゲームにもネタ元というべきゲームがある。
日本のRPGであれば、初代ドラクエを見た他社の開発者がコマンド式RPGをたくさん作っていったように、お手本があるものなのだ。
コンシューマ機におけるTPSでは『ギアーズオブウォー』がデファクトスタンダードだと言える。
FPSではなかなか表現しにくいカバーシステムを存分に生かしたことが最大の魅力だった。
そんな『ギアーズオブウォー』を参考にして、いや臆せず模倣したゲームが『クウォンタム セオリー』である。
まず見た目からしてパクリである。
レビューに張られたスクリーンショットを見て分かるとおり、『クウォンタム セオリー』では筋肉モリモリの大男が銃を使って怪物をなぎたおしていく。
もちろん『ギアーズオブウォー』の主人公達はガチムチ男たちで、敵は異形のモンスターどもだ。
海外で受け入れられるデザインに仕様としたのは分かるが、いくらなんでも「そのまま」すぎる。
次から見ていくゲームシステムもよくあるシューター(FPS、TPS)にありがちなものを使っているだけである。
しかしテクモが初めて開発したTPSだと考えれば、『クウォンタム セオリー』を海外市場に打って出るための習作として見た方が良いと思われる。
ここでは一旦パクリという視点は捨てて「習作としてはどうなのか?」に基づいて評価していく。(パクリだと考えたらどうしても厳しい意見が多くなってしまうので)
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派手なゴアエフェクト
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シューターあるある、を盛り込んだ作り
シューター(FPS、TPS)数多くやっているとどのゲームにでも見られるオキマリの要素が分かってくる。
『クウォンタム セオリー』はそのようなオキマリをきちんと押さえている。
例えば武器にピストル、ライフル、ショットガン、スナイパーライフル、ロケットランチャーといったものがあり、場面に応じて使いこなさなければならない点はシューターあるあるである。
武器の使い分けを覚えればゲームを楽に進められるようになるわけだ。
ハマリ対策としてピストルのみで進められるようになってはいるが、他の武器を使うと楽になるような場面がたくさんある。
シークレット要素も90年代のシューターに見られたシステムである。
『クウォンタム セオリー』はストーリーが謎めいたものであるため、シークレット要素で物語を保管するしかない。
マップのあちこちに隠されているものを探し出そうと動き回るのが懐かしきシューターを思い起こさせる。
三つどもえの展開もシューターでありがちな要素だ。
どのゲームが初めて採用したのかは分からないが、少なくとも1998年に発売された『ハーフライフ』から使われている伝統芸である。
プレイヤーは漁夫の利を得ようとしても、もちろん二陣営相手に戦いまくるのも可能だ。
他にも巨大なボスだとか、自動で援護してくれる味方がいるとか、ターレットで敵をなぎ払う場面とか、ヘッドショットをしたときの派手な演出だとか、次の部屋へ行くためには敵が次々と湧いてくる場面だとか、どっかのシューターで見たような要素がてんこもりである。
別にこれが悪いと言っているわけではない。
シューターの基本をよく研究して作っているゲームだと私は言いたいのである。
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ボスもいるぞ
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TPSとしてどうなのか?
だがシューターとしてみると欠点がいくらか目につく。
念のため言っておくと、さすがに海外製にもまれに見られる最低レベルのゲームほどではない。(例えば『Turning Point: Fall of Liberty』ほどではない)
ここで特に指摘したいのが武器の使い分けである。
ショットガンが有効な場面、スナイパーライフルが有効な場面、それぞれの状況に応じて武器を使い分けることがシューターの面白さであり戦略である。
既に述べたように『クウォンタム セオリー』でも武器の使い分けはハッキリとしていて、まあそこは合格点を与えられると思う。
しかしひとつ欠点がある。
というのも
「次の戦闘で使える武器が道ばたに落ちている」のだ。
プレイヤーにしてみれば次にどのようなシチュエーションが待ち構えているのか容易に想像がついてしまう。
スナイパーライフルが意味ありげに落ちていたら、次は遠距離戦が展開されるのだろうと予想がつく。
グレネードランチャーが置いてあれば、敵がわんさか出てくる合図だ。
おそらく開発陣からしてみたら親切心で置いてあるのだろう。
だが遊ぶ側が持ち運ぶ武器を考え抜く余地をそぎ落としてしまっている。
次に待ち構えるのがどういう場面か分からないからこそ、プレイヤーは強力な武器を温存したり博打覚悟で持ち替えたりするのである。
二回目プレイ以降は効率の良い武器選びをする楽しみもあるはずだ。
『クウォンタム セオリー』にはこういった楽しみ方がない。
手に入る武器をとっかえひっかえして、開発陣が上げ膳据え膳で用意した場面を攻略していくだけだ。
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色々な場所で戦いはくりひろげられる
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よくあるシューターとの差別化要素
『クウォンタム セオリー』のユニークなシステムが
コンビネーション攻撃と変化する地形である。
コンビネーション攻撃は味方女性キャラと強力な連携攻撃を繰り出せるシステムだ。
そして変化する地形は状況が刻一刻と変わる緊迫感を表現するしている。
二つの要素は『クウォンタム セオリー』が三人称視点のTPSだから採用された。
というのも、コンビネーション攻撃を「魅せる」ためには一人称よりも三人称の方が向いているからだ。
血なまぐさい戦場に花を添える意味もあるのだろうが、使える場面が中盤のわずかな時間しかないのは大きな欠点である。
では変化する地形はどうなのだろうか。
これはTPSとカバーアクションにありがちな欠点を解消するためのものと考えられる。
カバーアクションができるゲームは、壁に隠れているとほぼ敵無しの状態になってしまいがちである。
であるからカバーアクション主体のゲームでは、敵の攻撃力を極力高くしたり、カバーを不完全にしたり、敵がこちらの裏を取るように行動させたりする。
『クウォンタム セオリー』は同じ場所にいても地形が変わっていき壁に張り付いているだけでは敵から攻撃を受けてしまうようにすることで、TPSにありがちな欠点を消そうとしている。
ところが
地形変化による臨機応変な戦闘は終盤のごくごく一部だけにしか用意されていない。
付け加えるなら地形変化が連続する場面があっても単にプレイヤーの行き先を目くらましするだけにしか使われておらず、地形変化と戦闘が無関係の場面も多い。
せっかくの面白いコンセプトが生かされる状況がほとんどないのはもったいない。
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グラヌラを用意した狙いはいいのだが、実プレイではイライラさせるだけに
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コンセプトは正解だったのか?
確かに企業が売り上げを伸ばすためには、冷え切っている日本のコンシューマ機市場を多少は無視してでも北米の巨大なマーケットに向けて売らなければならないのかもしれない。
それならば北米で売れやすいジャンルはシューターで、過激なゴア表現も必要として、お手本は『ギアーズオブウォー』、となってしまうのか。
だが、ここまで露骨にギアーズと似せてしまったテクモ開発陣にはプライドというものがなかったのだろうか?
『ニンジャガイデン』、『デッドオアアライブ』、『零』といった有名なゲームを世に送り出した会社が出すゲームとしては節操がない。
『クウォンタム セオリー』じたいはシューターの基本をおさえつつ、TPSの欠点と利点を補うようなコンセプトをハイブリッドしたゲームである。
ただし、カッチリと作りすぎてプレイヤーの期待をしぼませてしまうような展開が続く。
コンセプトを発揮したシーンが用意されていないのも残念である。
照準を合わせる動作に慣性がかかっていているせいで難易度も不必要に高い(難易度をイージーにしたらオートエイムになって解消される)
やはり
作り慣れていないのだと思われる。
習作として甘めに見ても
「コンセプトは正解、手触りは微妙」である。
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難易度の高い平凡なシューターといった感じ
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