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プリンスオブペルシャ 忘却の砂


ジャンル:アクション
機種:PS3
発売年:2010年
開発会社:Ubisoft Montreal

公式サイト

レビュー脱稿日2011年4月

紹介

『プリンスオブペルシャ 忘却の砂』(原題『Prince of Persia: The Forgotten Sands』、以下『忘却の砂』と略す)は2010年に発売されたビデオゲーム。
開発はUbisoft Montrealで発売もUBI。

プリンスオブペルシャシリーズは明確にナンバリングが行われずに発売されてきたため、ストーリーの時系列がごっちゃになっている。
ここで一旦おさらいしておこう。
パッと見て分かるように、関係図を下に載せておいた。

『プリンス・オブ・ペルシャ』は元々1989年に発売された2Dアクションゲームだった。
続編の「2」と「3D」が発売された後に会社はゲーム開発から撤退する。
そこで版権をUBIが入手して新たなシリーズへと生まれ変わらせた。
私たちが新作として目にするプリンスオブペルシャは、UBIが制作した新シリーズだ。
当サイトでプリンスオブペルシャシリーズと表記するときは、このUBI制作のシリーズを指す。

新生シリーズの第1作として2003年に『プリンスオブペルシャ 時間の砂』(原題『Prince of Persia: The Sands of Time』)が発売された。
2004年には『ケンシノココロ』(Warrior Within)、2005年には『二つの魂』(The Two Thrones)が続々と出てくる。
一般にこの三つを「時間の砂シリーズ」と呼ぶ。
本稿で紹介・レビューする『忘却の砂』(2010年作)は、この「時間の砂シリーズ」に連なる作品だ。
『忘却の砂』のストーリーは一作目『時間の砂』と二作目『ケンシノココロ』の間を舞台とする。

2008年、上記の「時間の砂シリーズ」とは全く異なる新作『プリンスオブペルシャ』が発売されている。
『プリンスオブペルシャ』(2008)は、本当の意味での新シリーズを作ろうとする意気込みが感じられるゲームである。
わざわざ副題をつけなていないのも決意の表れと言える。
しかし評判が良くなかった(私もあまり評価していない)。
それがために物語では「後に続く」としていたのにもかかわらず、『プリンスオブペルシャ』(2008)の続編が作られることはなしに、旧シリーズの続編(『忘却の砂』)が作られたのだと思われる。
また、2010年に封切りされた映画版『プリンスオブペルシャ』との相乗効果を狙っていたのかもしれない。
いずれにせよ本作は時間の砂シリーズの新作と考えていただきたい。
プリンスオブペルシャシリーズ
これでプリンスオブペルシャシリーズの関係性が分かる(はず・・・)
『忘却の砂』は時間の砂シリーズの新作であるから、操作感やゲームバランスがそっくりそのままだ。
極論すれば、『忘却の砂』はPS2世代のプリンスオブペルシャシリーズをそっくりそのまま焼き直したゲームとさえ言える。
『アサシンクリード』で使ったゲームエンジンを再利用してリメイクを作った、と開発者も公言している。
PS2のシリーズをやったことがある人は、もうどんなゲームなのか想像できると思う。

複雑な操作を入力せずとも超人的なアクションをみせる主人公とともに、プレイヤーは様々な場所を探検する。
途中には一発死のトラップや、どうやって進めばいいのかわかりにくい場所、壮大な謎解きパズルが待ち構えている。
タイミング良くトラップを抜け出し、試行錯誤を繰り返して先へ進んでいくゲームだ。
なお、自由度は殆どなくて一本道だ。
好きなように駆け抜けられるわけではない。

3作続いたゲームの続編ということもあって飽きさせないようにする工夫は満載だ。
敵との戦闘は中ボスや大ボスも用意されているし、数十体の敵をなぎ払うような爽快感を重視している。
あまりにも凶悪すぎるトラップや面倒な敵・ボス戦・謎解きはない。
とはいえ、2008年に作られた『プリンスオブペルシャ』と比べると、操作ボタンが増えてトラップ自体も難しい。
例えば、「水の流れを一定時間止める能力」が難しさの元凶となっている。
タイミングよく水の流れを止めなければ進めない場面がゲーム後半に頻発するのだ。
難易度は時間の砂シリーズに戻ったと言うべきだろう。
トラップ
プリンスオブペルシャといえばトラップだ

レビュー

面白いことには面白いが、ただの焼き直し

同じものを連発すると何が起るか

洋楽ロックのCDアルバムに典型的な例がある。
メジャーデビューをした一作目のアルバムはそこそこ売れ、二作目は同じ路線で堅調に評価されたとする。
ここで三作目や四作目をどう制作するかが大事だ。
仮に路線を変えずにアルバムを発売した場合、「変化がない」と指摘される。
もし路線を変えたとき、「新たな境地を開拓した」と評価されることもあれば「失敗した」と見なされることもある。
路線を変更して失敗するか、または大いなるマンネリに陥ってしまったバンドは自然消滅しやすい。

実に多くのバンドが以上の道のりを経て解散したり、生きながらえている。
ここから見いだせる教訓は次の三つだ。
まず、売れた一作目の路線はいつまでも続けられるものではない。
次に、路線を変更すると失敗する恐れがある。
最後に、長く続けるためには路線の変更は不可欠であるが、それゆえに無闇な路線変更を行って自滅する恐れがある。
シリーズは変わり続けなければ死んでしまう。
しかし変わると死んでしまう危険性もはらむのだ。

ビデオゲームのシリーズにも全く同じことが当てはまる。
マンネリの打開に成功したシリーズは、例えば『バイオハザード4』、『スーパーマリオ64』がある。
有名シリーズを更に作り替えたゲームは軒並み評価が高い。
反対にマンネリの打開に失敗してしまったものには、厳しい評価が付きまとう。
『ファイナルファンタジー12』や『ロックマンX7』が良い例だ。
振り子
振り子のタイミングを見極めよう

作るべきではないゲーム

ここで紹介・レビューをしている『忘却の砂』の前に、UBIは完全新作とも言えるプリンスオブペルシャシリーズを発売した。
『プリンスオブペルシャ』(2008)である。
どんなゲームかは詳しくは本稿の「紹介」や『2008』のレビューを見てほしい。
『2008』はPS2で三作続いたゲームを心機一転作り直し、新たなシリーズへと生まれ変わろうとする野心作である。
しかしゲームとしては大きな欠陥を抱えていたのも確かだ。
私だけでなく、『2008』をやった人は物足りなさを感じている。

『2008』は「アクションの面白さを知らせるためのシステム作りに失敗」している。
タイミングを合わせてボタンを押す場面が殆どなかったのだ。
これが『2008』の欠点である

おそらく、『忘却の砂』は『2008』の反動で作られた。
簡単操作のやりすぎでゲームらしさ、いやプリンスオブペルシャらしさを無くしてしまった作品に、元のシリーズの面白さを加味しようとした。
ところが生まれ出てきた『忘却の砂』は過去作の練り直しだ。
もちろんシリーズ最高の「遊びやすさ」という利点はあるが、果たして『忘却の砂』は作られるべきゲームだったのだろうか。
私は作られるべきではないゲームだと考えている。
世に出るべきだったのは純粋なる『2008』の続編だ。

『忘却の砂』にはクリエイターたちの信念が感じられない(わざとクリエイターと言わせていただく)。
何も新しいことがなく、『2008』の良さを完全に捨てて、過去作に回帰するのは間違いだ。
前作の良いところを吸収したとすれば、それはそれで良かったのに、ほとんど拾い上げていないのはおかしい(滑り台くらいか)。
パズル
パズル解きもある

絡まないストーリー、変わりないアクション

マンネリに陥らず、そして本質を失わずにシリーズが積み重なったとき、シリーズは継続してゆく。
プリンスオブペルシャシリーズの本質は何か、という問いには二つの答えがある。
一つは「男女が出会い、冒険をするストーリー」。
もう一つは「アクロバティックアクションで、タイミングを見極めるゲーム」であること。

『忘却の砂』は男女が出会う物語になっていない。
PS2三部作にも、もちろん『2008』にも、恋仲スレスレの感情が描かれる。
言ってみれば恋物語の側面があった。
だからこそおとぎ話を見るかのように楽しめる側面があったのである。
映画にも使えそうな題材ということでディズニーが同名映画を作ったのも頷ける。
ところが『忘却の砂』はヒロインがあまり美人ではない上に、話の上でもヒロインとの繋がりが薄い。
過去作そっくりで既視感バリバリのシーンも多くてうんざりする。

かわりに主人公の兄との親密さを感じさせる場面は多い。
それはそれで良いのだが、主人公と兄の愛情を生かした展開にはなっていない。
またPS2世代プリンスオブペルシャで見せた、プレイヤーとCPUの協力プレーをすることもない。
なんというか、そのキャラクター(ゲーム中で兄と呼ばれるキャラクター)が兄である必要がないのだ。
足がすくむ!
足がすくむような高さを進む快感

順当な進化をした面も

アクション面についてはPS2世代の焼き直しであるから面白い。
新鮮さこそないものの、面白さは保証されている。
タイミングを見極めてすり抜けるトラップ、タイミング良くボタンを押すことで進める場面はもはや定番と言えるだろう。

PS2世代プリンスオブペルシャの続編に相応しい追加要素もある。
「一定時間水を止める」特殊能力である。
「水止め」は、プリンスオブペルシャらしさを表す「タイミングの見極め」とマッチしている。
主人公は一定間隔で吹き出す水を止めてしがみついたり、鉄棒のように大車輪をする。
しかし、単に水を止めて先に進むことだけが面白いのではない
「水止め能力」の本領は、水を止めた後にまた水を止める場面が連続する場面で発揮される。
水を止めて飛び移り、更に水を止めて次の場所へ飛び移り・・・というのを繰り返す場面がプリンスオブペルシャらしい面白さを生み出しているのだ。
水を止める瞬間にボタンをパッパッと押すのが楽しい。

戦闘もPS2時代のシリーズと比べるとずいぶんマシになった。
大量の敵をなぎ払う爽快感重視の作りに加えて、中ボス戦がちりばめられている。
とはいえ戦闘だけを取り出してみると特に褒められたものではない。
ただひたすら攻撃ボタンを押すだけで面白くないからだ。
水を止めよう
水を止めて進む

連発される続編

続編地獄に陥っているのは、なにも『忘却の砂』に限った話ではない。
昨今はゲーム開発費が高騰することで続編モノばかりになっている。
「新フランチャイズは成功しない」と言い切っているパブリッシャーもあるぐらいだ。
だからこそ1人のゲームファンとしては、小遣い稼ぎとしての続編が幾つか作られても大目に見たい。
続編で稼いだお金を、新しいゲームや斬新な続編に投資してくれれば何にも問題は無いのだ。

しかし、度を超したリメイク連発、続編連発はやってはいけない。
続編連発をすれば、元々新しいゲームを作るための続編が、いつしか資金を回収できなくなる続編を生み出すことになる。
そして売れない続編がいくつも開発され、開発費がかかっていない続編が更にまたユーザ離れを引き起こす。
今のスクウェアエニックスを見れば、続編地獄の行く末がどうなるのかは明らかだ。
このような地獄から抜け出すための方法は新作やマンネリ打破である。
つまり『プリンスオブペルシャ2008』の続編をなんとしてでも作るべきであった。
『2008』の欠点を修正した新作を作るべきであった。
『忘却の砂』によって、プリンスオブペルシャシリーズは死にかけている。
戦闘
相変わらず面白くない戦闘

まとめ

ゲーム自体は良作である。
過去の名作を真似したら面白いに決まっているのだ
しかし、短い期間に続編を連発する意味はあるのだろうか?

シリーズ経験者はガッカリしながら遊ぶことになるだろう。
未経験者は、最も遊びやすく手に入りやすいという点でおすすめはできる。

61点

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