レビュー
宣伝効果もあってか、最終的に『ケイン&リンチ』は全世界で140万本以上を売り上げることとなった。
大台の100万は超えているのだから大作と言っても良いのだが、ゲームの中身は中途半端で未完成のように感じられる部分が多かった。
ゲームの評判で売り上げが伸びたと言うよりも、事前のマーケティングが成功したからこそ、これだけの売り上げがあったと考えられる。
最初から結論になってしまうのだが、『ケイン&リンチ』自体は特に優れているゲームではない。
発売前に行われていた宣伝や前評判から考えつく『ケイン&リンチ』の内容と、実際の中身の差はかなり大きい。
購入した人にとっては期待はずれ感がかなりあり、あまり期待していなくてもやればやるほど拍子抜けをしていく。
典型的なガッカリゲームを地でいくのが『ケイン&リンチ』なのである。
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重厚なストーリーと宣伝されていたが・・・
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しかし優れている点はいくつかある。
ゲームをやっていてまず気がつくのは、操作が非常に簡略化されていることである。
『ケイン&リンチ』のような「分隊戦術を必要とされるTPS(FPS)」はシミュレーター要素と結びつきやすく、複雑なゲームになりがちだ。
例えばゴーストリコンという屋外の特殊部隊を扱ったゲームは、ミッションを遂行する前に大量の事前準備が必要となる。
キャラクターごとに能力が違っていたり操作方法や味方への指示が細かく行える反面、かなりややこしくなってしまう欠点がある。
その点で言うと、『ケイン&リンチ』はプレイヤーが行える行動を限定することで誰でも手軽に分隊指揮を楽しめるようにしている。
ゲーマー向けになりやすいジャンルを普及層まで押し下げてきたことには、大いに評価する価値があると言える。
説明書なんか読まなくても、ゲーム開始して間もない頃のチュートリアルだけやればすぐさま操作になれてしまうぐらいだ。
あとは難易度はいつでもイージーに出来たり、チェックポイントがこまめに用意されているのでユーザーには優しい作りになっている。
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指揮を執りながら敵をたおしていこう
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操作が簡単なことは褒められても、『ケイン&リンチ』は分隊指揮に致命的な欠点がある。
ゲームデザインや味方・敵のAIの至らなさにより、ゲーム自体に分隊指揮がそれほど必要だったのかと思わせるのである。
序盤は難易度を押さえるために味方をあまり必要とさせないようにしているのは分かるが、中盤から後半にかけても味方がいて助かったと思わせる場面が少ない。(もちろんあることにはある)
いくつかの理由があるので整理してみると、まずは味方AIの問題がある。
味方に指示を出して遠距離の敵を攻撃することも出来るのだが、ある程度の距離が離れるとまったくもって当たらない。
これ自体は味方が強すぎるとゲームにならないから短所にも長所にもなっていない。
遠距離で自分の攻撃は当たるから、味方の攻撃をブラフにしてチマチマ攻撃しても良い。
ここで1つ問題があり、遠距離の敵への攻撃指示を味方に出した場合、味方は自動的に敵に向かって突撃・接近をしてしまうのである。
ゲーム後半ともなれば敵がウジャウジャしてくるので、迂闊に突撃させるといくら耐久力がある味方といえどもあっけなくやられてしまう。
結局、自分の周りに味方を待機させ、遠距離から自分の力で敵を一つ一つ排除していくのが最も安全かつ楽な攻略法になっているのだ。
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結局頼れるのは自分のみなのだ
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それでもさっさとクリアしてしまいたいときは、味方を突撃させた方が早かったりする。
敵が味方に向かって攻撃している間は自分に攻撃が向いてこないことを利用して、味方が敵と交戦している間に自分が敵を排除しまくるのである。
この作戦を使うと必ずといっていいぐらいの確率で味方がやられてしまう。
ところがやられてしまった味方はプレイヤーがアドレナリン注射をすれば何回でも生き返ってしまうために、このような突撃作戦は意外にもゲームオーバーになりにくいために非常に有効だ。
しかし分隊指揮がウリのゲームにおいてこんな作戦は「ない」と思う、個人的に。
比較的難しい場面でも、何回か場当たり的に味方を突撃させてしまえばクリアできてしまったり、味方をわざと弾避けにして進むぐらいならば、わざわざ分隊の指揮を中心にゲームを組み立てる必要性はないと言える。
もうひとつ突撃作戦をしがちになる理由はカバーアクションの使えなさである。
プレイヤーが壁や車などの障害物に近寄ると、障害物を背にしたり、壁から手だけ出して銃を撃つことが出来る。
ところが壁に近寄ると自動的にカバーの体制に入るかと思いきや、入ったり入らなかったりして使い勝手が非常に悪い。
元々味方が敵に攻撃するのを援助したり、大量の敵がいる場所で攻撃を受けないようにするためのシステムだったとは思う。
しかし使いたいときに使えないシステムには頼るのは心許ない。
さらに言うと壁の後ろでしゃがんでいたり、カバーアクションを使用せずに若干壁に隠れる形で射撃するだけで十分に敵を排除することが出来てしまう。
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カーチェイスのシーン
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敵AIの作りにも問題がある。
『ケイン&リンチ』の敵は突っ込んでくるか、その場で動かないかの二通りの動きしかしない。
突っ込んでくる敵に関しては分隊指揮の意味はなく、まったく動かない敵については遠くからチマチマ攻撃するか、無理矢理味方を突撃させた方が良いのだ。
敵配置については、後半になればなるほどタレット(固定機関銃)が多くなっていて、迂闊に分隊を突撃させると全滅してしまうという難点がある。
そんなときは自分で敵をキッチリ片付けなくてはいけない。
まとめれば、『ケイン&リンチ』は分隊なんかに頼らずに自分でガンガン進んだ方が楽なゲームなのである。
TPSやFPSにおいて盛り上げる場面や山場の演出は、オキマリのようなものがある。
『ケイン&リンチ』では使い古された場面が当然のように使われている。
それが「装甲車をロケットランチャーで破壊」したり「ヘリコプターをロケットランチャーで撃墜」、「固定砲台がついた車で激走」するシーンだ。
ただ、これらの場面は不必要に難しかったりするのでプレイヤーのストレスの頂点になっていたりする。
相も変わらずこのような以前から使われているシーンを見るとは思わなかった。
まあ、基本をしっかりと押さえているとも考えられなくはないが。
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ロープを使って降りるシーンとかね
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もちろん目を見張る演出というのはある。
『ケイン&リンチ』はストーリー重視、演出重視のゲームだから力が入っている場面は他のゲームとは違う魅力がある。
ライトバンの後ろからパトカーとカーチェイスするシーンや、大量の一般人が逃げ惑うディスコでの戦闘はクライムアクションゲームの雰囲気としてもピッタリだし、迫力が素晴らしい。
特にディスコのシーンは、かなり大量の人混みの中から敵を発見して排除する必要性があって面白い。
これまでストーリーが重視されていると言い続けてきたが、話の筋としてはたいしたものではない。
いわゆるアクションものハリウッド的な、厚みはないが雰囲気が良いストーリーだ。
主人公ケインも他のキャラも皆頭のてっぺんが寂しかったりする中年で、他のキャラクターもほとんどが元犯罪者だったりする。
現実的なわけではないが、他のゲームとは異質な空気はそれだけで魅力的だ。
『ケイン&リンチ』の中盤以降はストーリーがしりすぼんでいく。
これは大きな問題だ。
先に述べた目を見張る演出はすべて中盤までに出尽くし、それ以後は盛り上がることもなく、唐突なエンディングを迎える。
ゲームとしても、ストーリーとしても一番面白いのが中盤であるので後半はどうにかならなかったのかと思ってしまう。
そして、主人公の相棒となるリンチ、他の仲間の立ち位置が微妙だ。
みんなが個性的なメンバーのはずなのに、それを生かした話が作られていない。
これは残念なところだ。
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混み合うディスコのシーン
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一見すると『ケイン&リンチ』は重厚なストーリーと戦術が必要なゲーム展開を楽しめるように思える。
ところが中身は意外にも薄っぺらいのだ。
ストーリーは盛り上がりに欠け・、説明も全体的に不足している。
戦闘においては戦術はあまり必要とされず、一般的なTPSのように自分の力でドンドン進む意味合いが強い。
せっかく洗練された操作方法を用意しても使い道がない。
『ケイン&リンチ』のコンセプトは素晴らしいものがあると思うが、うまく形になって現れていない。
全体的に調整不足なのか作り込みが甘く、未完成に近い印象を受ける。
(銃の使い分けが意味をなさない、グレネードが多すぎるなどなど、本文で触れていないことは多い)
これは当時、会社の経営が悪化していたので、発売日に合わせるために予算不足の突貫工事をしたのだとも考えることが出来る。
ゲーム自体の目指す方向性は悪くないのだから、時間をかけていけば良質のゲームとなり得た惜しい作品だと言える。
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最後には普通のTPSになってしまった
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