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Bionic Commando(バイオニック コマンドー)


ジャンル:アクション
機種:PS3
発売年:2009年
開発会社:Grin

公式サイト
2012年12月レビュー

紹介

『Bionic Commando(バイオニック コマンドー)』は2009年に発売されたアクションゲームだ。
発売はカプコン、開発はスウェーデンのGrinという会社が担当した。
Grinは下請けとしていくつかのゲームを開発していたが、2009年に『バイオニック コマンドー』、『ターミネーター サルベーション』、『ウォンテッド』を出した後に倒産してしまった。
どのゲームも大手会社の下請け製作であり、後者二つは映画原作ゲームであることが共通している。
売り上げがたいへん振るわなかったことが倒産への引き金となったようだ。

本作『バイオニック コマンドー』は1988年にはファミコンで発売された『ヒットラーの復活 トップシークレット』の続編だ。
『ヒットラーの復活 トップシークレット』は1987年にアーケードゲームで稼働した『トップシークレット』を改良した移植作である。
海外では『トップシークレット』と『ヒットラーの復活 トップシークレット』はどちらも『Bionic Commando』という名前で発売されている。
その後ゲームボーイでシステムを引き継いだ続編が発売されたり、別会社がシステムを発展させて『海腹川背』というゲームも作っている。

なお、2008年には『ヒットラーの復活 トップシークレット』のリメイク作『バイオニックコマンドー マスターD復活計画』も発売されている。
『マスターD復活計画』の開発会社は本作『バイオニック コマンドー』と同じGrinであり、この二作で世界の設定や登場人物の設定がようやく統一された。
名称がかぶっていてややこしいので断っておくと、今後レビューで『バイオニック コマンドー』と触れる場合、2009年に発売された本ゲームを示している。
スイングアクション!(ワイヤーアクション)
ゲームの説明に移る前に、元の作品である『トップシークレット』の話をする(『ヒットラーの復活』にも概ね当てはまる)。
『トップシークレット』はステージクリア式の横スクロールアクションゲームである。
ただしジャンプ機能を排除し、そのかわりにロープアクションを使って進めなければならない点が画期的だった。
もともとジャンプ機能というのはゲームの歴史を見ると初期からあったわけではなく、『ドンキーコング』などの後発ゲームが取り入れていった結果、ある意味入れて当然とみなされているシステムである。
そこで『トップシークレット』はジャンプ機能を入れるのではなく、ジャンプ機能を代替するロープアクションを導入して、新たなゲームを作ろうとしたのだった。
ジャンプが使えないキャラクターは天井に向かってロープを垂らし、垂れたロープにしがみついて身体を揺らすことで、まるでジャンプするかのように飛ぶことができる。
どのような状況かは例えばターザンを想像してもらえるとよい。
ロープアクションを行っているときのロープの慣性に為すがままにされる不思議な感覚と、それを制御して思うように進められるようになったときの達成感はただのジャンプアクションにはないものを持ちあわせている。

そしてロープアクション(ワイヤーアクションでもよい)は数多くのゲームに使われるようになった。
例えばカプコンの『ミッキーのマジカルアドベンチャー』やコナミの『がんばれゴエモン』で使われている。
アメコミ・映画で有名な『スパイダーマン』を題材とするゲームではほぼ必須になっている。
壁にひっつくこともできる
さてようやく2009年に発売された『バイオニック コマンドー』の説明に移れる。
本作は2次元だったワイヤーアクションを3次元にそっくりそのまま再現したところに特徴がある。
新作と言うよりも一種のリメイクといった方が近い。
3次元になっているため、距離感といったところで難しくもなっているが、そのかわりワイヤーで移動するときの迫力やスピード感は増している。
他には演出やストーリーは控えめで、流れる音楽も過去作のアレンジである点もリメイクを彷彿とさせる。
難易度は一番低くすればそこまで難しくはないが、高くすると『ヒットラーの復活』のような凶悪な難易度になる。

ただしそのままのリメイクというわけではない。
3次元になったことあって、戦闘は流行のTPS方式を使っている。
ジャンプ機能が追加された結果、ジャンプからのワイヤーアクションもできるようになった。
更にワイヤーを使って敵を攻撃したり、落ちているものを拾い上げて投げることもできる。
このような敵との戦闘で使える特殊アクションが数多く追加されている。

マルチプレイも用意されているのだが、今では誰も遊んでいない。
レビュー・紹介ともにシングルプレイのみとする。
操作の基本はTPSだ

レビュー

まさに正統派アクションゲーム。じわりじわりと面白くなる

アクションゲームの面白さとはなんなのだろうか

昨今のゲームはストーリーを重視しているため、純粋な80年代にあったようなアクションゲームは目立たなくなっている。
しかし『バイオニック コマンドー』は80年代のテイストをマイルドにしながらも、面白さの本質を変えないで2000年代に発売された。
その意味でやや時代遅れな面もあり、逆に尖ったところをそぎ落としてずいぶん遊びやすくなってもいる。

アクションゲームの本質は様々な定義があるとは思われるが、ここでは「(素早い)操作に習熟して上手になれること」と定義したい。
操作に習熟して上手になるためにはプレイヤーの技量の上達に任せるだけではなく、ゲーム側で「プレイヤーを上手にさせるためのレベルデザイン作り」が大事だ。
また、プレイヤーに「操作の習熟を実感させること」も無視されがちとはいえ重要である。
自分が上手になっていく過程がわかれば努力の達成感を得ることができるし、そもそも操作の上達がわからなければアクションゲームの本質を満たさないからだ。

ところで「プレイヤーを上手にさせるためのレベルデザイン作り」と「操作の習熟を実感させること」がおざなりとなっているゲームは意外と多い。
代表例が対戦ゲームである。
対戦だけに特化したゲームは一人で遊びつつ上達できるようなシングルプレイモード作りにあまり力を入れていない。
なぜかといえば他人との対戦が上記の機能すべてを自動的に担ってしまうからだ。
複雑なAIや緻密なレベルデザインを試行錯誤して実装するよりも、人間に任せた方が楽なのだ。
敵をワイヤーで吊して攻撃!

バイオニックコマンドーのレベルデザイン

『バイオニック コマンドー』はレベルデザインがしっかりと構築されているため、アクションゲームの面白さを感じやすい。
最初は簡単な場面から始まり、同じようなシチュエーションのまま徐々にむずかしくなっていき、様々な要素がからまっていくようになっている。

例えば、空中に浮いた物体にワイヤーをひっかけてスイングし、更に次の物体にワイヤーをひっかけなければならない場面がある(ゲーム中では空雷原とよばれている)。
操作になれていない序盤は複数回連続ひっかければ空雷原を突破できるようになっているが、進むにつれてどんどん長くなってくる。
おまけにリカバリーがききにくいように、落っこちたら即ゲームオーバーになるような厳しい場面も増えてくる。
しかし緩やかに難易度は上昇しているため、ゲームに慣れてくるとそれほど難しく感じなくなっているのだ。
似てはいるが難しくなったシチュエーションが出てきて、そして以前よりも楽に進められたとき、プレイヤーは上達したと感じるはずだ。

敵の出方もだんだん難しくなるように作られている。
バイオメックという敵のロボットと戦う場面が顕著だ。
最初は一度に少数しか相手にすることはないのだが、次第に二体・三体と同時に相手にしなければならなくなってくる。
戦う場所についても、初めは戦いやすい平地が中心だったのに対し、どんどん足場が悪くなっていき、ロケット砲といったアイテムの数も少なくなっていく。
厳しい戦いになってくとはいえ、プレイヤーもずいぶん上達しているため、そう難しくはなくなっている。

アーケードスタイルのゲームだと急激なレベルデザインになってしまいがちである。
そしてストーリーを基本に据えたゲームだと、演出のためにゲーム部分を組み込んで、難易度はいびつになってしまいがちだ。
『バイオニック コマンドー』は昨今のゲームで使われる大規模な演出とストーリー、旧作のアーケードスタイルを捨ててはいる。
だが綿密に調整された難易度カーブを手に入れている。
バイオメック戦は中ボスのようなイメージだ

ワイヤーアクションの楽しさ

優れたレベルデザインに加えて、ワイヤーアクションの楽しさも健在だ。
というか『バイオニック コマンドー』はワイヤーアクションに始まり、ワイヤーアクションに終わるとさえ言える。

ワイヤーアクションの楽しさは「通常移動よりも迫力とスピードに優れる」「ふわふわと浮いているような感覚」「敵を攻撃するときにも使える万能性」の三つにわけられる。
通常移動は重みを感じさせるようなゆったりとしたモーションで動いている主人公は、ワイヤーを使って壁や天井をつかんだ瞬間、勢いよく飛び出すことができる。
このスピード感は3Dならではもので、2Dでは味わえない。
そしてスイングを行っている際、主人公は振り子のようにほわんほわんと動く。
自由に動かせないことが逆に、慣性の強さとスピード感を生み出している。
スイングをしてタイミング良く飛び出せば、一瞬だけ無重力になったかのような浮遊感がプレイヤーをまっている。
しばらくすると重力が主人公を襲い、地面にたたきつけられるような重さを印象づける。
『バイオニック コマンドー』は通常移動とスイングアクションの速度差、スイング前後の無重力と重力の差が的確に作られており、スイングの快感を生み出しているのだ

ワイヤーアクションは移動手段に加えて敵を攻撃する際にも使える。
ゲームになれてくると、銃を扱う場面がかなり減ってくるくらいだ。
つまりワイヤーが移動にも攻撃にも使えるほど万能なのである。
モーションにも凝っていて、主人公は軽やかなアクションをみせくれる。
ワイヤーなしにただのTPSとして遊ぶのはもったいない。
これぞワイヤーアクション!

ワイヤーアクションのむずかしさ

三次元空間を舞台にするゲームに必ずつきまとう難しさが「座標軸合わせ」である。
x軸(横の動き)、y軸(縦の動き)、Z軸(奥行き)の三つを瞬時に理解してキャラクターを動かしたりしなければならない。
一方、昔ながらの二次元ゲームであればZ軸(奥行き)を考えなくても構わない。
三次元ゲーム独特の難しさはZ軸(奥行き)合わせにあると言えるだろう。
二次元でワイヤーアクションを行っていた旧作と比べると、三次元になった『バイオニック コマンドー』は座標合わせがとてつもなく難しくなっている。

そこでゲーム側では三つの解決法を用意している。
まず、複雑な移動手段や素早い操作を駆使してクリアするステージの数が少ない。
ワイヤーで障害物にしがみついてスイングして更にワイヤーでしがみついて…といった操作が厳密に要求される場面がそれほどないのだ。
地面をとことこ歩きながらでも割とどうにかなるシーンは多い。
二つ目の解決法は、落ち着いてやればクリアできるようにしている点。
もしワイヤーアクションに失敗しても、まわりの壁にしがみついたりしてリカバリーが効きやすくしている。
スイングして空中に飛び出した後にほんのわずかだけ訪れる無重力の瞬間も、実は落ち着いて操作するための間を提供している。
三つ目は、アシスト機能の存在である。
主に三種類のアシスト機能がある。
「つかめる場所を視覚的にお知らせするアイコン」「スイングを行うタイミングを分からせるエフェクト」「次に行える操作を画面右側に表示」である。
こういった機能のおかげで操作が楽になっている
だがアシスト機能のせいでUIがゴチャゴチャしている面は否定できない。

ワイヤーアクションのわかりやすさ

ひとつだけ誤解してほしくないだが、このゲームの難しさはたくさんのコマンドを覚えて使いこなさなければならないような、いわば格闘ゲームに見られる難しさではない。
覚えるべき操作は少ない反面、タイミングをあわせたり座標を合わせたりするのが難しいのである。
『バイオニック コマンドー』では敵を攻撃するときのワイヤーアクションも、移動するために使うワイヤーアクションも、同じ操作で行える。
操作の種類を絞りこんでいるのだ。
覚えるべき操作のは楽だが、習熟に時間がかかるタイプのゲームだ。
ある意味「分かりやすい」と言えるあろう。
使用可能な技は右側に表示される

ポテンシャルの高さを生かせない要素

『バイオニック コマンドー』はワイヤーアクションに関する部分は非常に良くできている。
ワイヤーアクションそのものの快感、欠点を克服するためシステム、使いどころがわかりやすく無限大である点。
しかし、他の部分で『バイオニック コマンドー』は大きく損をしている。

リプレイを考慮していない点が大きなマイナスポイントだ。
ステージクリア制のゲームになっていながら、一度クリアしたステージを遊びなおすことができない。
習熟した操作を使いこなすクリア後のお楽しみ場面がないのだ。
そういったゲームは数多くあるとはいえ、さすがに再プレイするには最初からというのは今時なかなか見かけない不親切さだ。

次に、殺風景な世界が広がっていてみすぼらしいことも残念だ。
木々や水面が揺れたり天候が荒れる場合はあるのだが、このゲームでは敵と主人公しか動くものが存在しない。
かなり広いステージを縦横無尽に飛び交わなければならないので、賑やかにするための人物や動物を排除したのだとは思われる。
しかしまるでのっぺりとした色の無機質な立方体のみで構成された場所を探索するかのような感覚を受ける。
おまけに大きな建造物と小さな主人公とのスケールの違いが極端すぎて、荒涼とした感じを更に増してしまっている。
こんなことになってしまった理由は、おそらくスウィングの早いスピードに合わせてマップを作った結果、メモリを初めとしたマシンスペックの限界にあたってしまったからだと思われる。

ステージの構成もやや単調さがある。
既に丁寧なレベルデザインを高く評価してはいるが、異なる視点からすれば同じようなものが続いていていると見ることもできる。
出てくる敵の種類は少なく、組み合わせと数の変化でなんとか変化をつけているだけだ。
また、ほとんどのステージが「敵を倒す」→「通信機をハックする」→「空雷原などを突破する」の繰り返しでできている。
すすめてもすすめても似たような場面が続いてくるので飽きやすい。

そして少なからず触れてきたように、ストーリー・演出ともに地味である。

広い場面にわずかな数の敵

愛のあるリメイク

『バイオニック コマンドー』は最高難易度にでもしなければそこまで難しくはないものの、愛のあるリメイクだといえるだろう。
音楽やアイテムが過去作からのオマージュとなっていることさることながら、ワイヤーアクションの手触りがすばらしい。
ワイヤーアクションじたいの面白さは3Dになり迫力とスピード感は増している。
3Dになったぶんの難しさは、楽しんでもらおうとするレベルデザインの緻密さとアシスト機能の存在がフォローしている。
ただしクリア後のお楽しみがない点は片手落ちではある。

世間から評価されなかったのも当然だと思われる要素は多い。
地味なパッケージ絵、言葉で伝えにくいワイヤーアクションの面白さ、ストーリーテリングをかなり排除した作り。
しかし触ってみると丁寧な作りが感じられるはずだ。
残念な点はあるが、『バイオニック コマンドー』は触ってみなければわからないゲームである。
クリアした後はワイヤーアクションなしには生きられない身体になっているだろう。
グラフィックはなかなかのもの

まとめ

横スクロールアクションゲームをそのまま3Dにしたようなゲーム。
徹頭徹尾ワイヤーアクションによるプレイを楽しめる。
丹念に調整されているため、慣れればそれほど難しくはない。
しかしワイヤーアクション以外の要素が貧弱だ。

69点

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