レビュー
完成度は高く新規要素も多分に含まれているが、それでもシリーズの根本的な欠点を抱えている
プリンスオブペルシャシリーズの欠点
プリンスオブペルシャ三部作シリーズの欠点は大まかに言うと二つあると思う。
「戦闘が面白くないこと」、次に「ルートが一本道であること」だ。
二つの魂では解決策のようなものを用意してはいるが、残念なことに根本的な欠点は消えていない。
戦闘のくだらなさに『二つの魂』が示した解決方法は、「スピードキル」という要素の追加である。
スピードキルとは敵の背後から近寄って、一撃必殺をする技のことだ。
成功すると、他の敵に気づかれることなく敵を始末できる。
多数の敵を相手にスピードキルを連続して発動させることができれば、何人もの敵をあっという間に始末できるという優れた技である。
だが
スピードキルは成功するための条件が結構シビアだ。
スピードキル中は画面に現れる合図に合わせてタイミング良くボタンを押さなければならない。
実はタイミングがやたらとシビアでなかなか成功させにくい。
スピードキルに失敗すると周りにいる敵が警戒モードに移ってしまい、同じ敵には二度とスピードキルを発生させられなくなる。
警戒モードに入ると後は普通の戦闘へ移行してしまう。
ところが、戦闘は実に面白くない。
敵が異常に固いため、まともに戦っているとこちらのHPがジリジリと減っていく。
そして読み合いが全くなくて、ひたすら攻撃をするかガードをするかだけなので単調極まりない。
一応、このシリーズでは一部の敵以外は無視して進めることができる。
「敵がいやなら逃げてよ」ということなのだ。
というか、二つの魂ではスピードキルに失敗したら敵から逃げるというのが開発側から用意された正解だと私は考えている。
的が警戒モードに移行してしまったら、逃げた方が時間も主人公の体力も節約になるのだ。
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戦闘の様子
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プリンスオブペルシャシリーズ二つ目の欠点は一本道のゲームデザインにある。
場合によっては一本道であっても良い、と私は考えている。
三部作ともに「自由度を減らしてでもキャラクターの動きやルート発見の面白さを指向する」デザインのゲームだと考えれば、そういうのもあっていいのだ。
ところが『二つの魂』では前々作や前作までの謎解きや一発死の緊張感が失われたため、かなり見劣りしてしまっている。
三部作の一作目(時間の砂)は謎解きが重視されたアドベンチャーゲームらしさ溢れる作りで、二作目(ケンシノココロ)は凶悪なトラップが多いアクションゲームだった。
最終作の二つの魂はどちらの要素も含まれているものの、あまり濃くはない。
『二つの魂』で重視されているのは「移動」である。
クリアしてみると、頭をひねるような謎解きやシビアな移動で困ったことは少なく、先へ進むためのルート探しをしているイメージが殆どだ。
もちろんプリンスオブペルシャ独自の、ルート探しの面白さというのはある。
一見するとどう行けば分からないところを時間をかけて観察し、ボタン1つで主人公をアクロバティックに操る面白さ。
それはシリーズ通して変わるところのない良い点だ。
しかし移動するだけとなったらそれは面白いのだろうか。
有名なゲームの続編は制作されるごとに洗練されていき、厄介な要素はどんどん排除される。
ところが厄介な要素が異常なくらいに取っ払われてしまうと、今度は中身スカスカのスポンジになってしまうのだ。
私は二つの魂をクリアして面白かったと満足感を感じていたのにも関わらず、二度とやりたくないと思ってしまった。
ゲームとして大事な達成感や手応えが前作までと比べて大きく失われていたのだ。
確かに一本道ゲームは2週目をやりたいかどうか思わせることが非常に難しいとは思う。
それでも、一作目の『時間の砂』に衝撃を受けたファンとしては、今作『二つの魂』は想定内の面白さにとどまっていると思う。
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こういう場面が非常に少なくなっている
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続編としての立ち位置
シリーズもののゲームは、新規要素を追加して継続的に買ってもらうユーザーを楽しませるように作られていることは多い。
二つの魂でも様々な要素が追加されている。
その中でもひときわ目立つのはダークプリンスへの変身だ。
ダークプリンスに変身することで、ゲームの進め方が変身前とかなり変わる。
比較的ゆっくり進行できる変身前と違い、減少する体力や嫌らしいトラップに気を使う緊張したゲームになるのだ。
『二つの魂』で最も面白いのはダークプリンスを操っている場面である。
進行するだけの生身状態と違い、限られた時間を意識しつつ難しいトラップをくぐり抜けていくのは、変身前のゲームで顕著だった緊張感の欠如という欠点をうまく解消している。
だが問題があるとすれば、やはり変身時間の短さである。
そして返信できる場面はゲーム側であらかじめ決められている。
変身をしていない状態をメインとすれば、ダークプリンスを操る場面はあくまでも副次的なのだ。
もちろん変身していない場面があればこそ、変身後の面白さが際だっていると考えることもできる。
しかし、ダークプリンスへの変身は最初のうちは緊張感はあるが、ある程度慣れてくるとセオリーのようなものが分かり、緊張感が無くなってしまう。
体力を回復する場所がかなり設けられているのに気づくからだ。
そうなってはダークプリンスの楽しさと引き換えにただでさえプレイ時間が長い生身状態の味気なさは気になっていたのに、楽しい場面だったダークプリンスまでも同じ印象を抱いてしまう。
セオリーが分かりきってしまうゲーム後半は若干、消化試合気味だ。
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ダークプリンスの鎖アクション
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『二つの魂』は細かいところを抜きにして考えるとサービス精神が旺盛で、非常に親切なゲームだ。
私がこれまでチクチク指摘したのは、毎年発売し続けた三部作の最終作でシリーズの弱点が解消されていなかったからだ。
開発者は分かっていながら敢えてやってるのかもしれないが。
まあそんなことは置いておいて、
ゲームの緩急の付け方やプレイヤーへの優しさは『二つの魂』が最も優れている。
まず変身前と変身後でゲームプレイが変化し、プレイヤーを飽きさせないようにしている。
これは前の段落で述べたことだから分かるだろう。
そして何よりもゲーム全体を見ると同じ場面が継続して使用されていない。
城の中を進んでいると思ったら次は街の中を、そして次は洞窟の中を、といったように適度な配分で場面が変化する。
適度な場面でボス戦や戦闘馬車(チャリオット)が組み込まれ、イベントムービーが流れるムービーパートではストーリーが展開する。
セーブポイント兼体力回復ポイントも一息つきたいところに置いてある。
こうした遊んでもらうための仕掛けがしっかりしているのが、二つの魂なのだ。
ストーリーもきちんと複線を改修し、まとめているのも高評価だ。
三部作で1つの作品に仕上がっている。
何度も繰り返すが、私は三部作を続けてやっているので、厳しい口調が多くなっている。
続編ということを差し引いても、『二つの魂』はよくできたゲームである。
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チャリオットに乗って街を駆け抜けろ!
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複雑に作られたマップをボタン1つで縦横無尽に進んでいくプリンスオブペルシャ三部作の面白さは健在だ。
確かに既に述べたように緊張感のあるマップ構成は影を潜めているが、かえって移動の面白さが増したとも考えられる。
それまでのシリーズにあるような嫌らしい仕掛けはなくなり、ある程度考えれば解決するトラップや謎解き場面が多い。
少しだけ頭をひねれば解決するパズルがものすごく大量に用意されているのだ。
つまりプレイヤーにあまり負担をかけることなく、パズルを解く達成感や面白さをたくさん与えている。
そうしてプレイヤーの操る「プリンス」は見るも鮮やかで豊かな動きを見せてくれる。
プリンスのモーションは数え切れないほど多く、そして非常になめらかだ。
しかもこのような躍動感のある超人的な動きを、簡単な操作で行うことができる。
洋ゲーというと厳密なゲームというイメージはあるかもしれないが、二つの魂はやることが非常に簡素化されている。
アクションのシビアさはほどほどにアドベンチャー要素が重視されているので、アクションアドベンチャーという言葉が似合うと思っている。
二つの魂は非常に親切で気軽なゲームなのだ。
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身もすくむような高さの場所を進む
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