レビュー
かなり劣化した『パシフィックアサルト』
リアルなのか、ゲーム的なのかはっきりとしない『ヨーロッパ強襲』
『ヨーロッパ強襲』が発売される一年前の2004年、PC向けに『メダルオブオナー パシフィックアサルト』が発売された。
『パシフィックアサルト』はそれまでのメダルオブオナーシリーズと違って、味方と共にする団体行動が基本となり、リアル系寄りのシビアなバランスで作られていた。
メダルオブオナーと言えば戦場の雰囲気はあるものの、基本は鬼のように強いプレイヤーが弱っちい敵を倒しまくるゲームだった。
そういう意味では『パシフィックアサルト』は毛色がずいぶん違うゲームでもあり、これからレビューする『ヨーロッパ強襲』でも同じような感覚を引き継いでいる。
ただ
『パシフィックアサルト』よりも『ヨーロッパ強襲』はかなりゲーム的な作りになっている。
ゲーム機を中心に展開するゲームだから、このような調整になっていると思われる。
しかし『ヨーロッパ強襲』はバランス調整がなんだかおかしい。
リアルなのか、それともゲーム寄りなのかどっちつかずになっているのだ。
そこが独特の面白さを生み出しているとも言えるが。
|
死んでもなぜか復活できる
|
『ヨーロッパ強襲』の面白さと相反するゲームバランス
ヨーロッパ強襲では敵の射撃がやたらと正確だ。
特に、プレイヤーが遮蔽物に隠れずに棒立ちしているときは格好の的になってしまう。
だから「屈み」や「匍匐」をしたり、物陰を利用することでダメージを最低限に抑えることができる。
これはリアルさをウリにするゲームで重視される要素だ。
さらにプレイヤーは物陰からリーン(体を傾けること)射撃を行うことで、さらに敵からダメージを受ける割合を減らすことができる。
敵さんも遮蔽物を使って顔だけ出して狙撃してくるのが殆どだ。
こちらに向かって突撃してくる敵はまったくいないので、プレイヤーは落ちついて匍匐・リーンをしつつ敵を狙撃していく。
一方で迂闊に敵に近づいて攻撃しようとすると、攻撃を一斉に浴びてこちらはすぐに死んでしまう。
ダメージを最小限に止めるためには遠距離攻撃が重要なのだ。
これがヨーロッパ強襲の面白さだ。
|
強力な武器で遠距離攻撃が基本
|
ところがいつもいつも遠距離試合となるわけではない。
近距離の戦闘もあるわけだ。
『ヨーロッパ強襲』は、近距離戦での敵攻撃力が高すぎる。
敵に近づくと、あまりにも急激に敵の攻撃力が上昇する。
落ち着いてやりたいのに被ダメージ量がやたらと多い。
敵を倒し忘れたりすれば、倒し損ねた敵からあっという間に大ダメージを受ける。
そこでゲームシステムには一定時間無敵になる
「アドレナリン要素」や、体力が0になっても復活できる「リバイブ」が追加されているのではないだろうか。
だからと言って根本的な解決にはなっていない。
付け焼刃の超能力を使うと、ゲームの統一感がなくなってしまう。
そして「リバイブ」や「アドレナリン」は、近距離戦が反射神経勝負になってしまっている、劣悪なゲームバランスの悪さを改善するのではない。
根本的な欠点に蓋をしただけに過ぎない。
ついでに言うと、敵を倒すと銃弾を補充アイテムを落とすことがある。
ところがこのアイテムの消滅スピードはかなり速い。
調子に乗って遠距離射撃をしていると銃弾が無くなるので、ある程度近づいて敵の攻撃を浴びる危険を冒しつつ攻撃し、前線へ走ってアイテムを回収しなければならない。
こう書くと距離感を元にしたバランスがとれているように思えるが、ヨーロッパ強襲は近距離となると敵の攻撃がおかしいぐらいに激しくなるため、そもそも近づけない。
だからアイテムを逃しやすい。
|
対戦車武器は大切に
|
どうしてこんな意味の分からないバランスになってしまったのかというのは、ヨーロッパ強襲ではけっこう広いオープンフィールドが舞台となっているからだと思う。
公式ウェブサイトを見てもらうとヨーロッパ強襲のウリの要素が分かる。
その中に「広くて自由度の高いマップ」が特徴として紹介されている。
実際はゲームの半分が屋外戦でもう半分が屋内戦だったりするんだけど、まあそれはいい。
つまり『ヨーロッパ強襲』は広い場面を前提として敵AIの挙動を作っているのである。
これは味方のAIにも同じようなことが言える。
『ヨーロッパ強襲』は味方に指示を出せるようになったのは良いのだが、かなりバカだ。
ちょろちょろとあちこちを動き回ったり、指示をしても思ったように動いてくれない。
しかし屋内戦となると、屋外戦よりも指示したとおりに動いてくれる。
言い換えると、屋内戦用のAIを屋外戦にそのまま適用しているのだ。
味方は室内ではそれなりに戦ってくれるが、外では全く使い物にならない。
これが敵は屋外が得意で屋内が得意、味方は屋外が苦手で屋内が得意という技術的問題になって現れている。
追記しておくと、味方は屋内戦が強いから近距離戦のバランスがとれているかと言うわけではない。
味方の動きは総じてバカなのでストレスがたまるばかりである。
そして屋内戦になると味方が受けるダメージも大きくなる。
ちょっと激しい攻撃が降りかかる場所では、たとえ室内であっても、2人の味方はまったく役に立たない。
これでは味方として存在する意味がない。
|
室内戦の様子
|
プレイヤーを落胆させる二点
『ヨーロッパ強襲』のフィールドは一見すると結構広いので、攻略に幅がもてそうな気がする。
ところが一回やってみるとよく分かるのだが、実のところ一本道だ。
なぜなら適切なルートを取らないと敵から一方的な攻撃を受けたりしてキツイ思いをする。
また途中に強力な武器が落ちてることもあるので、結果的には同じようなルートを取ることが攻略法になってくる。
ステージ中に与えられる、ステージクリアとは無関係の副次任務も自由度の面白みを生み出していない。
副次任務とは名ばかりである。
一つのステージに数えるほどしかなく、しかも主要任務の片手間で済んでしまうようなものばかりなのだ。
あと気になることが1つだけある。
それはボス級の敵として現れる敵軍将校の体力がやたらと高いことだ。
リアルなバランスのゲームなのに、妙に耐久力のある敵が出てきたら萎えないだろうか?
こういうゲームにおいて手榴弾で戦車を破壊するミッションもこりごりだ。
ヨーロッパ強襲は、あくまでもゲーム的にいくのか、それともリアルさを追求するのかの選択ができていない。
|
敵軍将校(ボス)がやたらと強い
|
しかし操作感は良好
バランスがヘンテコなゲームだが、音楽・操作感覚・グラフィックはPS2としてはきわめて優れている。
特に評価したいのは操作感覚だ。
ゲーム機のFPSは照準の操作にクセがあったり、障害物が見た目よりも当たり判定が出かかったりすることは多い。
こういったことがあるので、ゲームとしての出来が良くても印象が悪くなることは良くある。
PS2のFPSは未熟な物が多い。
またコントローラーだと敵に照準を合わせるのは結構難しい。
そこで綿密な調整をするか照準の補助機能をつけなければならない。
ヨーロッパ強襲は絶妙な調整が行われており、操作感が非常に良好だ。
もちろんオブジェクトの見た目と当たり判定は相違が無く、ストレス無く遊ぶことができる。
基礎部分はよいのにゲーム作り方で失敗してしまうと言うのは、FPSには結構多い。
FPSは類似のゲームが多く、操作などの基礎的なところは蓄積された技術や経験を生かして良質になりやすい。
一方でゲームの中身は同じようにはいかない。
『ヨーロッパ強襲』は操作感良好で、遠距離戦をチマチマとするならば面白い。
だが、敵の攻撃が激しくなれば味方は役に立たなくなり、リアル系のバランスでランボーをしなければならなくなる。
噛み合っていない、ちぐはぐとしたゲームだ。
|
PS2の限界かもしれないが、演出にもガッカリ
|