レビュー
シミュレーションロールプレイングゲームの醍醐味がつまった逸品
ファイアーエムブレムの形式では避けられない欠点
まず、ファイアーエムブレムシリーズにつきまとう欠点を見ていこう。
どんなゲームでもシリーズが増えて行くにつれて、大幅にシステムを変更しない限り、有効な戦法というのは決まってくる。
ファイアーエムブレムにおいては次のような戦術がゲームをすすめるために極めて有効すぎる嫌いがあった。
「成長率が高いユニットを厳選し、厳選されたユニットに経験値をつませる」「経験値をつませたユニットで次々と敵を倒し、おこぼれが出たらサブユニット達をそだてていく」。
このような軍略があまりにも使い勝手が良すぎた。
俗にSRPG界隈で言うわれている地雷戦法である。
言ってしまえば、ファイアーエムブレムは地雷戦法さえ覚えれば簡単なゲームなのである。
以上のような欠陥ともいうべき仕様に歯止めをかけるため、ファイアーエムブレムシリーズや『ベルウィックサーガ』には対策がほどこされている。
たとえばGBAで発売されたファイアーエムブレムには、敵のパラメータを上げたハードモードを用意して簡単には倒せない敵を配置している。
『ファイアーエムブレム トラキア776』はユニットごとの上限値が低めでHPも低く、地雷戦法に向かないユニットが多い。
そしてどんな攻撃でもあたる確率が1%のこっているため、強いユニットでも敵の攻撃を受ける可能性が残されている。
では『ベルウィックサーガ』はどのような対策を施したのか。
ひとつに、敵から攻撃された際にダメージを受けた場合、反撃を行わないようにした。
敵からの攻撃を完全に避けにくいバランスにしているため、反撃で敵をなぎ倒すことは難しくなっている。
ふたつに、ヘックス(六角形)のコマを採用することによって、地雷戦法をする際に戦う敵の数を増やし、前線の壁を作りにくくした。
前線の壁をつくりにくいとどうなるかと言えば、後ろの方にいる弱いユニットが敵に狙われやすくなる。
壁による地雷戦法がとりにくくなっているのだ。
みっつ目は、味方の能力値をなかなか上がりにくくした点も指摘できよう。
つまり敵と味方の能力差が少なくなり、無双状態になりにくくなった。
『ベルウィックサーガ』は三つのやり方でもって、ファイアーエムブレムで培われてきたセオリーを破壊したのである。
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誰を使うか?
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確率の魔術師
『ベルウィックサーガ』は100%がないゲームである。
敵に攻撃を与える確率は80%あれば御の字、敵の攻撃を避ける確率もまた高くはない。
しかしユニットごとの相性や地形を利用すれば、なるべく100%に近くなる。
このようなやり方によって、常に頭を働かせなくてはいけないスリリングなゲームに仕上がっている。
具体的には「アデル」という名前がついたユニットの用法が良い例である。
アデルは二軍クラスの能力値しかないもの、もっているスキルは強力なものであり、装備できる特殊武器も使いようによっては高威力が期待できる。
ゲームを始めてからずっと帯同するユニットでもあり、成長させる楽しみもある。
したがって、アデルを上手く使えるかどうかが『ベルウィックサーガ』を楽しみ、SRPGを享受するための指標になっている。
全体的に攻撃が命中しない『ベルウィックサーガ』の中でも能力値が中途半端なアデルの攻撃命中率を上げるためには、レオンというコンビユニットを近くに置く必要がある。
また、アデルのもつスキルは相手に攻撃されても先制攻撃できる可能性がある強力なものである。
つまり言い方を変えれば、ダメージをうけることなく敵の攻撃を迎撃できるスキルをアデルはもっている。
このとき、アデルの近くにレオンを置けば、攻撃の命中率が格段にあがるようになっているのだ。
そして敵の攻撃がアデルに集まるように上手くパラメータ調整、ユニットの配置をすれば、アデルは多くの敵の攻撃をしのぐことができる。
ついでにいえば、アデルが特殊武器を装備できるようになるまでのパラメータまでレベルアップするにはたくさんの敵に攻撃を与えなければならないため、アデルを壁にすることは理にかなっている。
以上のような用兵を考慮させるための要素は何もアデルに限った話ではなく、すべてのユニットに通ずるところがある。
一定ターン経つと使えなくなるユニット、攻撃力はあるが守備が脆いユニット、弓攻撃を避けられるユニット、敵の攻撃を惹きつけられるユニット等々、
どうしても100%の確率で攻撃を当てられない代わりに、様々なスキルをもったユニットが用意されており、彼らを重層的に幾重にも使いこなさなければならないのだ。
『ファイアーエムブレム トラキア776』はさきにみたように、攻撃が100%あたらないように作られており、『ベルウィックサーガ』との関連性を指摘できよう
ただし99%まで上げるのが容易である点に、『ベルウィックサーガ』との違いがある。
スキルもまた使いどころがあるかどうかというより、敵を倒すために特化したものが多く、ここにも相違を見いだせる。
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非常に厳しい場面だ
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撤退戦など、臨機応変で機敏な判断が必要なマップ達
『ベルウィックサーガ』のもうひとつの魅力がマップである。
一癖二癖あるマップばかりだが、そのほとんどに共通するのが「完璧にこなそうとすると恐ろしく難しいが、妥協すれば光が見えてくる」点である。
分かりやすい例として撤退戦を挙げよう。
これは一定のターン以内にNPCの味方を回収して、その上で全味方ユニットを離脱させるという目的のマップである。
回収した味方が多ければ多いほど報酬は弾むが、味方ユニットを離脱できない場合次のマップからロスト状態(死亡扱いで使用不可)になってしまう。
つまりリスクとリターンを天秤にかけながら、自分の実力・持っているユニットや雇えるユニット達の能力を考慮して、最適な報酬を得なければならないのだ。
『ベルウィックサーガ』はこうしたトレードオフの関係が常に要求されるマップばかりで構成されている。
欲を出せばすぐに痛い目に遭ってしまうデザインになっている。
であるから完璧なプレイを目指すスタイルの人にはストレスになって仕方がないゲームでもある。
しかし、自分の状況を見極めた上で、最大限できることをやり遂げられるようにおのずから仕組まれていると言えないだろうか。
換言すると、
プレイヤーにとって最も気持ちよく遊べる難易度に、プレイヤー自らが能動的に調整できるように巧妙に作られていると考えられはしないか。
とはいえ、やはり難易度が高い。
5ターンごとにセーブができるので、実はクリアするだけなら体当たりでどうにかなってしまう可能性はあるのだが、そういうこと以前に、プレイヤーに要求される技量の水準が高い。
SRPGに慣れていなければ全く歯が立たないだろう。
ファイアーエムブレムシリーズに臨機応変な対応が必要なマップが出てきたのは『ファイアーエムブレム トラキア776』以降のことである。
ここにも『ベルウィックサーガ』と共通する設計思想がみられる。
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アデルを育てれば頼れるユニットになる
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無駄なユニットが存在しない
既に確率のところでも述べたのだが、
『ベルウィックサーガ』にはどのユニットにも使いどころがあり、無駄なユニットはほぼ存在しない。
シミュレーションロールプレイングゲームはユニットごとに個性があるからおもしろい。
ユニットごとに固有のグラフィックが用意され、固有の物語が紡ぎ出され、戦闘ではスキルや能力の違いが固有の使いどころを生み出す。
さらっと書いているが、実に凄いことなのである。
役割がほぼ重なるユニットが存在せず、それでいて一人一人に使い道が用意されているゲームはそうそうない。
それもこれもスキルの違いが運用法の差を生み出しているのだ。
ファイアーエムブレムシリーズは初代こそキャラ付けによってユニットごとの役割を差別化しようとしていたが、シリーズが進むにつれて弱いユニットや役割がかぶるユニットの存在意義が失われていった。
シリーズ作品によっては話のあらすじにもかかわらないし、戦闘でも対して役立たないユニットが存在する。
単に仲間を増やせばユニットの差が生まれるわけではない。
どこで、だれが、どのように、仲間になり、そこにいかなる意味合いがあるのか。
仲間ユニット一人一人の存在意義を消し去るような要素はないか。
『ベルウィックサーガ』はそういった事柄を突き詰めて作られている。
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いわゆるメルクマール(指標)ユニットがこの人
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初心者お断りだがSRPGに慣れた人ほどおすすめできる
しかし初心者お断りのバランス調整には賛否があろう。
事実、特に発売直後のデータや情報が出回っていないときは「難しいだけのゲーム」と呼ばれることも多かった。
しばらくして情報が広まるにつれ、『ベルウィックサーガ』の絶妙なさじ加減が広まっていったほどだ。
が、やはり
絶妙なさじ加減を味わうためには少なからず他のSRPG経験がなければいけないと思われる。
個性のあるユニットの用法、癖のある敵の倒し方などはSRPGに慣れているユーザーでさえ手こずる。
まして初心者はどうやってクリアできるのだろうか。
『ベルウィックサーガ』はファイアーエムブレムの陥った欠陥を修正すべく、細密に作られた良質なSRPGである。
戦略を考える楽しさとキャラクターを成長させたりする楽しさを究極まで追い求めている。
しかしその反面、「理解できるユーザーだけついてこい」とも言わんばかりの難しさに溢れている。
単純にSRPGを楽しむための定石と言った知識段階の難しさは当たり前、それでいてマップがいやらしいことこの上ない。
いくらセーブがこまめにできるとはいえ、気軽に遊べるゲームではないことは確かだ。
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マップにあわないユニットで攻略しようとすると大変だ
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