レビュー
Treyarchの意地を感じる良質なFPS
『ブラックオプス』のシングルプレイ使われている手法
CODシリーズはInfinity Wardが伸ばし、Treycrchが整えるという方式が続いている。
Infinity Wardが『2』、『4』をつくればTreycrchが『3』『WaW』を作るというように。
今作の『ブラックオプス』もまた、Infinity Wardの製作した『MW2』から一年後に発売された改良版にあたる。
ことにマルチプレイについては、ゲームとして崩壊していた『MW2』を研究して作られている。
他方、シングルプレイはInfinity Wardの作るゲームとは雰囲気や演出方法が全く異なっていて、ようやくInfinity Wardの呪縛から放たれたとさえ表現できそうだ。
レビューはシングルプレイから行う。
『ブラックオプス』はFPSありながら、ときおり主人公を外側から映して客観化させている。
これは没入感や一体感を大事にするFPSでは滅多に使われない手法である。
何故使われているのかは、少し物語の内容に触れながら説明しなければならない。
主人公のメイソンは合衆国の特殊戦闘員として世界を飛び回る役目を請け負う。
ところが、ある種の目眩がメイソンを悩ませることになる。
この立ち眩みはストーリーで大きな役割を果す。
そこで、
一人称視点でプレイヤーとメイソンの視野を同化させることによって、メイソンの苦しみをプレイヤーへ体験させているのだ。
しかしここで終わってしまっては只の没入感を生かした、従来から存在するFPSの手法と変わりない。
『ブラックオプス』で面白いのは客観化である。
客観化に重要な役割を果たすのは周りの仲間、とりわけハドソンだ。
ハドソンは一部のミッションでプレイヤーキャラクターにもなるので、準主人公と言ってもいいだろう。
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地獄だぜ!
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主人公のメイソンがおかしな状態になっているのに対し、ハドソンはまともだ。
そんなハドソンからの視点をところどころに挿入することで、物語が独りよがりにならないですんでいる。
つまり一人称視点はキャラクターへの共感・一体感を生み出すために使われているだけであって、決して物語を語らせるために一人称視点は使われていないのだ。
物語を重層的に、いや客観的に見せるためにハドソンの視点が効果的に使われている。
ゆえにプレイヤーは『ブラックオプス』のストーリーを、キャラクターへの同感を抱きながら、非常に冷静な目で見つめることができるのだ。
これは前作『MW2(モダンウォーフェア2)』の独断的な物語への反論となっている。
『MW2』は極論すると、個人の暴走が描かれている話だ。
あまりにも登場人物の行動が自己中心的で、最後まで物語が主観的に進んでいった。
一言で表現すると、あれは「暴走」なのである。
(念のために補足しておくと、『COD4』は主観的でありながら「暴走」をおこさせていない。『COD4』の名作たる所以である)
しかるに『ブラックオプス』ではそのような「暴走」を起こさせないように、主人公の周りには常に第三者の目が光っている。
私は準主人公として登場するハドソンに助演俳優賞を贈りたい。
極めつけはエンディング直前のラストシーンにある。
そこでは物語の核心をさらに広い視点から示唆する、重大な要素が描かれている。
ラストの含意するところは、『ブラックオプス』はあくまでも客観的な物語であるという点だ。
「歴史の裏側で行われた男たちの戦い」を、歴史の一ページを紐解くように表現している。
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敵の基地。とにかく寒そう
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あまりにも自分で動かせる余地がないシングルプレイ
ストーリーの見せ方は素晴らしい『ブラックオプス』だが、ゲームとして見た場合はそれほど評価できるとは言えない。
シナリオがプレイヤーを誘導していくゲームは、プレイヤーが自由に動かせる余地を減らすことで、シナリオ通りに物語を進める。
話の筋を脱線させることなく、遊ぶ人へ十分に伝えるためには「自由度が制限されること」は仕方がないのだ。
したがって昨今のCODシリーズでは、プレイヤーが「見るだけ」のシーンを数多く取り入れている。
アクション映画を超える、ゲームならではの演出を画面に映し出すためである。
もちろん『ブラックオプス』でも同様の手法が使われているため、旧来のアクションゲームにあるような楽しみが薄れてしまっている。
壮大なカットシーンや演出は作るのに時間がかかる。
一方で敵を配置して好き放題に動かすのはそれほど時間もかからない。
そのため、濃密な演出をやろうとすればするほどゲームが短くなってしまう欠点がある。
『ブラックオプス』では自由に動かせる「普通のゲーム」の場面も、演出時間との整合性をとるためか短い。
ゆえに
敵を探して倒すというFPSならではの楽しさを堪能できる場面が少なくなっている。
これでは物足りなさを覚える。
前作『MW2』にあったスペシャルオプスモードもない。
(スペシャルオプスモードは、シングルプレイから演出を省いて再構成したゲームモード)
つまりシングルプレイはあくまでもストーリーを楽しませるだけの存在へと変化したのだ。
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ベトコン?チャーリー?どうでもいいや燃えろ!
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難易度調整の不完全さ
もうひとつの問題がここで噴出する。
何度も遊んでもらうことを想定しているためなのかわからないが、
『ブラックオプス』は難易度を高くしたときに不必要なほど難しくなってしまう。
隣の仲間キャラクターな何ともないのに、自分は遙かに遠くの敵から異様なほど集中砲火を浴びてしまったりして、極めて不自然だ。
奇妙なほど不自然な難易度の高さは、体力が自動回復方式をとっているのが原因である。
放っておけば体力が回復するように作られているため、あっという間に一撃死になってしまうようなバランスにしておかないと簡単になりすぎる。
自動回復では、プレイヤーは障害物に隠れながら「攻撃して隠れ」、そして「トライアンドエラー」を繰り返すという進め方になりやすい。
結局「トライアンドエラー」が中心となるゲームでは、難易度を上昇させようとすると一発死を多くしなければならなくなってしまう。
一発死がなければ、プレイヤーは壁に隠れるだけでがんがん進められるからだ。
念のためにフォローしておくと、Treycrchが以前開発した『WaW』と比べると、グレネードがどこからともなく降ってくることはない。
この点は評価できる。
また自動回復方式は余計なことを考えずに済むなどの利点も多い。
以上の欠点は『ブラックオプス』が特別酷いわけではなくて、自動回復を採用するゲームでは普通に見られる要素だ。
オフラインだけで終わらせるのはもったいない
オフラインのみの人にとって『ブラックオプス』はボリューム不足だろう。
なぜならオフラインで遊ぶモードはシングルプレイだけしかない。
対戦はもちろん、ゾンビCOOPはすべてオンラインを介している。
ゾンビモードは『WaW』に引き続いて人気のあるモードと言えるのだが、この手のCOOPにつきものの問題を抱えている。
かなり難しめと言うこともあって、ガチガチのセオリーに沿ってやらなければすぐに終わってしまうのである。
気軽に遊べるように作られてはおらず、COOP目当てに買うのはやめておいた方が良いだろう。
自由に遊びたい人と、ガチプレイをした人とが一緒の部屋にいると、雰囲気がピリピリする。
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これぞベトナム
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キャンプとグレポンを潰したマルチプレイ
マルチプレイヤーモードはCODシリーズ最大の「売り」となっている。
かつてはシンプルさだけが特徴の何の変哲もないマルチプレイが収録されていたのだが、『4』以降に装備のカスタマイズ性を上げるなど、コンシューマーゲーム機のユーザーも楽しめるように作り替えた。
その結果、
CODシリーズと言えばマルチプレイ(対戦)であるとさえ言われるようになったのだ。
PCゲームの対戦界の状況はというと、カウンターストライクシリーズが未だに根強く遊ばれ、オンラインFPSも着々と広まってきている。
つまりPCにはマルチプレイ専用のFPSがたくさんあり、未だ多くの人に遊ばれている。
ゲーム機はどうかと言えば、マルチプレイ専用の「定番」は少なく、新作が出るたびにユーザーがゴッソリと新作へ移動していく。
こうして
「CODシリーズ」はマルチプレイの「定番」へと変わっていったのだ。
『ブラックオプス』のマルチプレイの特徴は、過去作の反省にある。
カスタマイズ性が向上することによって、同時にバランスは崩壊しやすくなる。
そこで『ブラックオプス』は念入りに、強武器・強装備を潰して遊びやすくした。
具体的にはグレネードランチャーの弱化が大きな意味を持っている。
敵がいそうな所に撃ち込む武器(ランチャー系)が弱体化されたので、銃を使って戦うFPSらしさが復活した。
自動制御のヘリコプターも撃墜しやすくなっていて、銃撃戦に集中しやすい環境が整っている。
さらにはキャンプできる場所・こもっていれば有利な場所がこどごとく潰されている。
スナイパーライフル・ライトマシンガンのような定点キャンパー御用達の武器が弱くなっているのは良いことだ。
流動性が高くなるようなマップ構成にすることにより、CODシリーズにしては珍しく、攻めることが意味を持つ。
したがってかなり忙しくて密度が高い戦闘を楽しめる。
これは人数が多い場合だとかなり顕著になる。
ゆっくりと遊びたいのだったら、武器の攻撃力が高くなるハードコアモードや、S&Dというルールが用意されている。
だがやはり『ブラックオプス』の魅力は、両チーム16人ぐらいで戦うハイスピードな展開にある。
スナイパーライフルを装備して、高所に籠もりながら敵を倒したい人にはまったく向いていないゲームだ。
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(マルチプレイ)
新しい型のファマスが出てきたりと、時代考証はメチャクチャである。楽しければいいか
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味気なさと、詰めの甘さ
しかし、やや味気なくなっているのも一面としては正しい。
いわゆる「正解のカスタマイズ」、「鉄板装備」がなくなっている反面、逆に言えば武器や装備の個性が無くなっているのだ。
だからどの武器を使っても同じような感じがしてしまう。
また、キャンプポイントがなくなっていて、強力なカスタマイズも無くなっているので、FPSをやりなれていないプレイヤーにとっては酷である。
『ブラックオプス』は経験や実力がはっきりと出てしまう。
敵がどこから出てくるのか、いつ出てくるのかを常に考えながらやらなくてはいけない。
(誰でも経験することだから書いておくが、FPSをやりなれていうちはキャンプで敵を倒すのが楽しい。
チームに貢献していないにも関わらず、「自分が敵を倒したこと」だけが目に入ってしまう。要は「敵を倒せたから楽しい」のである)
更に初級者・新規プレイヤーにとって酷なのがPerkの仕様だ。
問題は「Perkのプロ化」にある。
Perkは特殊能力を付加して対戦を有利に進めるシステムである。
そのPerkは一部の条件を満たすことで、プロ化することができる。
ところがプロ化のための条件が結構面倒な上に、ある程度の実力が必要になってしまう。
例えばマラソンPerkは、『ブラックオプス』を遊ぶ人が少なくなるとプロ化不可能になる恐れがある。
試合をこなして経験値を貯めてレベルアップをすれば、新しい武器が手に入るというのは、やったらやっただけ報酬が得られる点で平等だ。
『ブラックオプス』はそこに、試合後に手に入る「CODポイント」を使うことで武器や装備の使用権を解除できるようになっている。
だが、なぜかPerkのプロ化にはポイントの消費に加えて、特定のプレーが強要されている。
実績システムのように幅広い遊び方をさせるのが意図なのかもしれないが、解除できない人や数年後に解除不可能になったりする可能性を考えられなかったのは失態としか言いようがない。
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(マルチプレイ)キルストリークが勝利への鍵
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マルチプレイの雑感と、結論
Perkはプレイスタイルに合わせて幅広く選べるカスタマイズの一種だ。
強いと言われているクレイモア(地雷)やナパーム(空爆)、あとはスタングレネードを無効化する「防御型」のPerkが『ブラックオプス』で新たに追加された。
言い方を変えると、「防御」に特化すれば敵の攻撃はかなり防げるようになった。
しかしここで錯覚のようなものがが生じやすい。
「防御型」を使っていると攻撃に有利なPerk、例えば敵に見つかりにくくなる「ゴースト」は使えなくなる。
そのため「防御型」を使っている人は、自分は「防御型」の恩恵を受けていることを棚上げして攻撃型Perkの強さを非難しがちだ。
防御の強さは実感しにくく、攻撃の強さは実感しやすい。
プレイヤーは何かしらのPerkを装備しなければならないので、敵も味方も自分も「おあいこ」になっている。
「おあいこ」であることが分からないひとが驚くほど多い。
敵が使っているのは強いように感じてしまうが、それは錯覚なのである。
もちろん、攻撃型を好む人が防御型を批判することもあるだろう。
FPSは敵を倒したスコアを競うゲームだから、敵を倒す際に自分の受けた恩恵は尚のこと強調される。
同じような例にキルストリーク(敵を連続して倒すこと)の報酬で使える「RC-XD」を挙げておこう。
「RC-XD」は簡単にいうと敵をほぼ確実に倒せる強力な報酬だ。
しかし、実はチームの勝利には「RC-XD」よりも「偵察機」という報酬をもらった方が貢献できる。
「偵察機」は数あるキルストリークの中でも、使いやすくそして強力だ。
ところがいつまでたっても「RC-XD」の報酬をもらい続ける人や、「偵察機」を発動せずに他の報酬をもらおうとする人がいる。
なぜなら「RC-XD」のような敵を直接倒せるキルストリークは、敵を倒せたという快感が得られるため、人気が集中してしまいやすいのだ。
「偵察機」のように自分が受ける恩恵はわかりにくく、また自分自身よりも味方への貢献度合いが多いものは、あまり使われない傾向がある。
(もっとわかりにくい「カウンター偵察機」も使われない)
さて『ブラックオプス』を一言で表現するとしたらどうなるのであろうか。
私は「Treyarchの意地が生んだ、『俺についてこい』というFPS」であると思う。
FPSで重視されがちな、プレイヤーは主人公と一体化するべきと言うセオリーを逆手にとった作りのストーリー。
マルチプレイでスナイパーライフルやキャンプを排除するような仕組み。
どれもがTreyarchの信念を感じる。
やや小汚くて泥臭いのもTreyarchの作るCODの魅力と言えるだろう。
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ドラゴヴィッチ、クラフチェンコ、シュタイナー、奴らに死を!
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