レビュー
フルボッコすると楽しいが、いつのまにやら飽きる
『バレットストーム』は一風変わったFPS
FPSをやったことのない人がFPSのゲーム動画や画像を見ると、どれも同じゲームに見えるのではないだろうか。
大抵のFPSは、操作のクセなど除けば「敵に攻撃を当てて、隠れる」の繰り返しにすぎない。
ゲーム内には様々な銃が登場するものの、結局は銃を発射して当てるだけだ。
こうなってしまってはFPSの新作が出てきても、どれも同じようなゲームになってしまう。
演出でごまかすか、ストーリーでごまかすか、何にせよ、ゲームプレイの根幹に横たわる画一性を隠しきれていないのだ。
『バレットストーム』は「画一化されたFPSのプレイを破壊」しようとしている。
違う言い方をすれば、壁に隠れて顔だけ出してチマチマ撃っているようなFPSとはおさらばしたゲームだ。
だったら『バレットストーム』はどんなゲームプレイが待っているのだろう。
それは「敵に突っ込んでキックしたり爆発させたり、好きなように料理できる」という感覚だ。
『バレットストーム』は決して、昔ながらのゲームを復刻させたのではない。
ストーリーは分厚く語られ、リプレイ性もさほど高くないところが実に2011年のゲームらしいゲームである。
つまり、ストーリー性やリプレイ性を犠牲にする現在のFPSから、既視感のあるゲームプレイを一新したものなのだ。
百種類もの「スキルショット」によって敵をフルボッコする楽しさがある。
いつまで経っても同じようなFPSばかり作っているCODシリーズへの皮肉を込めた『Duty Calls』というプローモーションゲームもあるくらいだ。
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敵に銃弾の雨を降らせろ!
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「スキルショット」の魅力
「スキルショット」に始まり「スキルショット」に終わるのが『バレットストーム』だ。
基本的には3つのステップを踏む。
まず、ムチで引き寄せ、敵を空中に浮かせる。
次に引き寄せた敵を蹴り飛ばして
最後は浮かせた敵に銃弾の雨を注ぐ。
他にも色々な種類の「スキルショット」はあるが、基本はこれだけだ。
敵を一定時間無防備にしてしまうから「スキルショット」は面白い。
つまり落ち着いて敵を倒す方法を考えられるのだ。
しかも敵は空中に浮かされると、かなりマヌケな格好で制止している。
ここに、お馬鹿な敵を好きなようにいたぶっていくサディスト的な面白さを見いだせる。
難しいゲームをクリアして快感を抱くような「マゾゲー」とは違う。
そして敵を目の前に引っ張り出すこと自体が、FPSでは意外にも画期的で楽しい。
大抵のFPSにおける敵というのは、壁や遮蔽物にかくれて攻撃してくることが多く、またプレイヤーも敵の手とか頭を精密に狙撃しなければならない。
こういうチマチマしたゲームプレイばかりだとやっぱり飽きてしまう。
一方『バレットストーム』はといえば、些細なことは気にせずに、大ざっぱな感覚で敵を引き寄せて銃弾を好きなように撃ち込む。
遮蔽物を使って嫌らしく攻撃してくる敵は、ムチで引き寄せてしまえ、ガチで勝負できないクソッタレどもに銃弾をぶち込んでやれ、というわけだ。
シングルプレイの主人公は「困ったらぶっ壊せばいいだろ」という考えの脳筋だ。
ゲームプレイでも、いかに脳筋になれるかが試されていると言って良いだろう。
他のゲームほど体力や銃弾に気を遣わなくても良いから、ただひたすら敵に飛び込んで、「スキルショット」を狙う。
『バレットストーム』は大ざっぱな脳筋ゲームなのだ。
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脳みそ筋肉の略が脳筋である。攻撃こそ最大の防御だ!
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環境を使うゲーム
とはいえ頭を使わないで済むというわけではない。
何も使わなければすぐに飽きてしまうからだ。
マップの作りや、敵の種類ががどうなっているのかをよく考える必要がある。
特にマップの作りがどうなっているのかを見極めるのが大事だ。
例えばサボテンだらけの場面に遭遇したとしよう。
こういうときは、敵を蹴り飛ばしてサボテンに串刺しするのが一番良い「スキルショット」だ。
次に港のステージに移動したとしよう。
だったら敵を海に落として魚のエサにしてしまうと良いかもしれない。
そのまた次は断崖絶壁の場面だ。
今回は敵を崖下に落としてしまえば楽に倒せるし「スキルショット」にもつながって良い感じになる。
実はいま示した三つの例は、全く同じ操作でおこなえる「スキルショット」である。
「スキルショット」システムの凄いところはここにある。
より一般化して言い直すと、同じ操作方法で異なる「スキルショット」が狙えるように作られているのだ。
プレイヤーは「スキルショット」ごとにややこしい操作方法を覚える必要はない。
敵を蹴り飛ばして何かに衝突させれば「スキルショット」になることを、経験的に覚えればいいだけなのである。
同じ操作なのに結果が違うので、単調さが全くない。
簡単で分かりやすいゲームと言ってもいいだろう。
他の「スキルショット」でも技巧的な要素が必要とはいえ、複雑な操作を要求するようなものはすくない。
『バレットストーム』はFPSとして大事な
見て撃つ操作が中心である。
見て撃つことができれば、あとはどのようにして
見て撃つかを考えなければならない。
もう少し分かりやすく言い換えると、
見て撃つという簡単な操作によって、どうやって見て撃つかを考えるクリエイティブな要素に集中できる環境が整っているのだ。
そしてシチュエーションが様々に変化し、敵の登場の仕方にたくさんのパターンがあり、クリエイティビティを向上させてもいる。
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巨大な水車じゃねえか。これに敵を放り込んだらさぞかし面白い「スキルショット」になるんだろうなあ
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「スキルショット」へのインセンティブ
もうひとつ「スキルショット」で述べなければならないことがある。
プレイヤーにどうやって「スキルショット」をやってもらうか、が『バレットストーム』はよくできている。
これは『バレットストーム』を考える上で絶対に欠かせない。
プレイヤーが「スキルショット」をやりたいと思うようなインセンティブは三つある。
一つ目は、「スキルショット」自体の威力である。
大砲を使って敵をまとめて粉砕したり、敵を電線に蹴り飛ばして感電死させるとき、ふつうに銃を撃ち込むよりも早く倒せる。
「スキルショット」をやればさっさとクリアできるようになっているのだ。
二つ目は「スキルショット」で得られるポイントで弾薬や武器のグレードアップが行える点。
クリアするためにはこれも欠かせない要素だ。
武器のグレードアップはさほど大きな効果はないものの、ポイントの消費という点では理にかなっている。
ポイントを稼ぐ意味が出てきているのだ。
これは、2Dシューティングゲーム(『グラディウス』など)や大昔のアクションゲームを考えてみると、『バレットストーム』のポイント制の利点が分かる。
ポイントを稼ぐ行為はアーケードのシューティングゲームやアクションゲームにもあった。
ポイントを稼いでどうなるかというと、残りプレイヤー数(残機数ともいう)が増えて攻略が楽になり長時間遊べるようになっていた。
純粋にポイントを上げることを目的とする、スコアラーという人たちもいる。
しかし、残機数アップばかりさせているとゲームに緊張がなくなり、長時間プレイでゲーセン側も悲鳴を上げるので、1ゲーム中に一回とか二回しか行われない。
つまり昔のゲームはポイントを稼いだ報酬がごく稀にしか行われないのだ(ゲームによっては存在しない)。
たまにしかない要素を満たすための目標への動機は小さくなってしまう。
2Dシューティングゲームの中には面倒なシステムを使ってスコア稼ぎをしなければならないものも多く、一見さんはますます遠ざかってしまう。
反対に『バレットストーム』は頻繁にグレードアップがあり、稼ぎのための「スキルショット」も簡単な操作で行える。
とても遊びやすいゲームと言える。
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電気びりびり
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簡単な操作、弱い敵、ゆるい評価
三つめのインセンティブが最も大事である。
『バレットストーム』はプレイヤーを常にほめてくれる。
「スキルショット」に成功すると、画面にデカデカとスキルショット名が表示され、いくらポイントを稼いだのか表示される。
新しい「スキルショット」を使ったときには同じように、緑色の文字で大きく表示される。
既に「スキルショット」が簡単に発動できることは述べていると思う。
要するに、簡単な操作で行えるスキルを成功するたびに褒めてくれるという構造になっているのだ。
これはエコーモードで特に顕著だ。
エコーモードはシングルプレイの場面を再構成して、好き放題に暴れ回れるようにしたモードのことである。
ここでは「スキルショット」の解除がリセットされているため、画面に表示されるショットの名前がとにかく賑やかだ。
クリアすると算出される評価もかなり緩い。
プレイヤーはエコーモードをやると、常に褒めてくれていると感じる。
もっと俗な言葉を使うと「オレつえええええ」とか「オレすげえええええ」感を大事にしているゲームと言えるかもしれない。
教育では褒めるのか叱るのかが常につきまとっている。
どちらかに偏っては、子どもやペット(犬)は間違った方向に育ってしまう。
だからバランスよく褒めたり、叱ったりすることが大事だと言われている。
ビデオゲームにおいては、というか日本の教育でもどちらかというと「叱り」に重心が置かれている。
だからテストでもなんでも加点方式は採用せずに減点方式を使って、完璧を目指すように言われる。
『バレットストーム』は全然そんなことはなく、常に褒めっぱなしだ。
ノルマも難しいことはなくて一種の全能感さえ持ってしまう。
そういう意味では珍しいタイプのゲームである。
(サディズム全開という意味でも珍しい)
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俺つええ。瀕死だけどね
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一週で飽きる。これはどういうことか?難しくしないのか?
とはいえ、褒めるゲームだからこその欠点はある。
『バレットストーム』の構造は以下のようになっている。
「スキルショット」自体が面白い
↓
「スキルショット」が発動しやすい
↓
「スキルショット」を常に褒めてくれる
↓
「スキルショット」があればゲームが楽になる
↓
ますます「スキルショット」をやりたくなる(最初に戻る)
このようなスパイラル構造を作っているのは、言ってみれば「スキルショット」の浅さである。
浅くて深みがなくて技術が必要ないからこそ「スキルショット」は使いやすい。
だが逆に、習得に時間がかからずに深みもないシステムは何回か使っていると飽きてしまう。
飽きを防ぐために様々なシチュエーションを用意してクリエイティビティを上げているものの、自分の限界に挑戦するゲームに見られるチャレンジ精神みたいなものはない。
難しいものに挑戦する魅力がない点で、『バレットストーム』のシングルは妙な淡泊さを抱えている。
ここで冒頭に私が「『バレットストーム』は決して、昔ながらのゲームを復刻させたのではない。ストーリーは分厚く語られ、リプレイ性もさほど高くないところが実に2011年のゲームらしいゲームである」と書いたことを確認してもらいたい。
『バレットストーム』というのは、一週のシングルプレイを通して最後まで遊んでもらうゲームなのである。
繰り返し遊ぶようなゲームではない。
そのために「褒めておだてて遊ばせる構造」を作り、プレイヤーを楽しませる。
しかし、最後にくるのは挑戦のしがいのなさからくる「満たされなさ」だ。
『バレットストーム』をクリアしてもやりきれない思いを抱きやすいのは、以上のような理由があるからだ。
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見るからに痛そうなサボテン
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