久多良木健のプレステ革命 紹介・感想 --FF2400-- ゲームのレビュー・紹介
最終更新日 2010年7月
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久多良木健のプレステ革命
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著者:麻倉怜士
出版社:ワック
出版年:2003年
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初代プレイステーションの開発秘話を詳細に記してある本だ。
オーディオ評論家の麻倉怜士が執筆している。
また、「ソニーの革命児たち」(IDGコミュニケーションズ 1998)を文庫化したものでもある。
文庫では新たに久多良木健のインタビューが載っている。
2003年当時の新製品であるPSXや、次世代プレイステーションに搭載されるCPUに関しての話が読める。
幻に終わった任天堂とソニーのプレイステーションに始まり、プレステが海外でも爆発的に売れるまでを扱っている。
特にプレイステーションの父「久多良木健」に焦点を当てているが、プレステに関わった多くの方の話も掲載されている。
プレステに関するありとあらゆることが扱われていて内容が非常に濃い。
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●ソニーを体現したプレイステーション
□それは一目惚れから始まった
久多良木健がなぜゲーム機に惹かれることになったのかについては、彼の業績と言動から考えるとわかりにくい。
ソフトウェアの開発は行わずにいつもハードウェアの開発と、それによって実現される未来を説いていたからである。
ゲームが好きだから作っているような感じがしないので、どうしても『娯楽』を作る人物とは思いにくい。
しかし大学の卒論がコンピュータグラフィックスに関するものであり、ありとあらゆるコンピュータハードウェアに興味を持つ久多良木健がファミコンに興味を持つのは必然であった。
さらに当時最先端のCG用ハードウェアをソニーが作っていたことも大いに関係している。
システムGと呼ばれる機械を久多良木健が目にしたのは運命的であった。
そこから3次元映像によるゲームの革新を心に刻むこととなるのである。
偶然が積み重なってプレイステーションは生まれるわけだが、それは任天堂との契約破棄にも当てはまる。
ソニーは任天堂と共同開発でゲーム機を作っていた。
幻のプレイステーションである。
ところが任天堂とソニーは契約が決裂して、試作機は試作機のままとなってしまった。
しかもソニーにしてみれば、任天堂からバカにされるような仕打ちでもあった。
このような事件がソニー(というか久多良木健)になおのこと火をつけたのである。
□最大の革命は流通とサード囲い込み
情熱に火がついたソニーは、反対に冷静に市場を分析した。
私がすごいと思ったのはここである。
任天堂が初心会という問屋組織で作り上げた流通システムはロムカセットの欠点を補うものだったが、当時はひずみがきていた。
そこでプレイステーションに採用したCDの利点を生かすために、全く違う流通システムを作り上げたのである。
CDでなければ為しえないほどの画期的な流通はメーカーにも、ショップにも、ユーザーにも利益が出てきた。
実はライバル機のセガサターンやかつて発売されたPCエンジンは、CD媒体を採用していた。
ところが流通システムがファミコン自体とほぼ同じロムカセットに有利な方法であったため、CDの利点を全くいかせられなかったのだ。
また、開発環境の整備や地道な営業活動は多くのメーカーを仲間に引き入れた。
特に充実した開発ライブラリはアマチュアや他業種からの参入を容易にした。
それが数々のヒット作へと繋がるのである。
□プレステ以後のゲーム機への多大なる影響
プレイスターションのハードウェアで最も不可解なのが型番の存在だ。
かなりの数の型番が存在しているのはコスト削減のためである。
普通なら考えられないほどの人数でハードウェアの改善を行い、あっという間に利益を稼ぎ出すのだ。
これはハードウェア設計時にあらかじめ想定されていた。
それまでのゲーム機ではまったく考えられなかった斬新な手法でもある。
よく分かるのはライバル機、セガサターンの構造だ。
サターンはかなりの数のプロセッサーを積んでおり、コスト削減が容易ではなかった。
プレステ陣営はそこをサターンの弱点と見極め、徹底的な価格競争に持ち込み、最終的に勝利するのである。
数年後のコストを見据えた構造はその後のゲーム機に受け継がれている。
PS2、PS3、そしてXBOX360のようなハードは常に改良が行われている代表例だ。
□すべてがうまくいった
ハードウェアに関する仕掛けも、流通に関する仕掛けも、広報のやり方も、どれもがドンピシャだったのが初代プレイステーションである。
大企業病にかかりつつあったソニーに受け入れられなかった異端児たちは自分の居場所を求め、SCEへと集まった。
しかし彼らはソニーの魂の体現者なのである。
一応言っておくと、プレステ2以降の怪しい雲行きは書かれていない。
全体的に賛美の色合いが強い本でもある。
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★★★★★
初代プレイステーションに関する話はこれ一冊でほぼ網羅できる。
今後新たな情報を拾うことも難しいだろうから、末永く読まれ続けるだろう。