テレビゲームと癒し  紹介・感想 --FF2400-- ゲームのレビュー・紹介
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最終更新日 2010年5月

テレビゲームと癒し
著者:香山リカ

出版社:岩波書店
出版年:1996年

 
紹介
精神科医として臨床をしつつ、文筆活動も行う香山リカが著作。
2000年ごろから本を乱発してボロが出ている感はあるが、まだそうなっていないときの本なので内容はまともである。
というか誰だって乱発すれば論考が浅くなったりするものなのだ。

香山リカは弟の保護者としてゲームセンターに行き、ゼビウスやディグダグを生で触れ、その後ファミコンのドラゴンクエストをやった経歴を持っている。
そうした経験を併せ持つ医師が、精神科医として子供と話をして治療を行っていく過程でテレビゲームのもつ不思議な力を実感していったという。
それはメディアで言われるようなゲーム害悪論というものではなくてゲームにポジティブな面、とくに精神を患う子供のを治療するツールとしての力である。

感想
●ポジティブポジティブ

□キツネ憑きの偏見

大昔は、いまではヒステリー性の精神病のひとつとして考えられることも人々はキツネ憑きとしてお祓いをすませていた。
それは物事の本質を見ないで、キツネ憑きのもつ魔術的な要素を日常とは切り離されたものと感じ、お払いをすることで一種の安心を得るものであった。
現代のテレビゲーム害悪論も、ただなんとなく悪いものと考える人が心のやすらぎを得るために、「やっぱりゲームは悪いのだ」と納得させられる事実を欲している点でキツネ憑きの問題と根元は一緒だと指摘している。

今まで行われてきた学術的な研究も、初めに「ゲームは悪」「ゲームは善」ありきで調査が行われ、予想された結果しか出てきていないらしい。
わかりやすく言うとゲームはいいものとか悪いものだという自分の考えの論拠を得るための偏った研究しか行われなかったのである。
著者は論壇や世論に迎合するような非中立的な研究しか行われないことを嘆き、中立的で科学的な調査が行われることを期待している。


□ゲームしかできないというのではなく、ゲームならできるという考えを

重度の精神病の子供たちがどのような状態なのかは私にはわからないが、著者のいうには何もできない状態が多いらしい。
しかし不思議なことにゲームだけは興味を持って、やっていることがあるそうだ。
そのような事例をして、ゲーム害悪論者は「子供を夢中にさせるゲームが悪いのだ」と論じそうなものだが、香山リカは機転を利かせて『普段は何もできない子でもゲームだけはできるんだ』とポジティブにとらえる。
そこで臨床の際にゲームを取り上げるということはせず、極端にゲームに興味を示す子供とは一緒にプレーしたり、子供(患者)が話すゲームの話を聞いたりと、ゲームと付き合っていく臨床を行っている。
ところがゲームを媒介にして治療を行っていっても、それが直接的に患者の症状を軽くできたとも、ゲームのせいで悪くなったともいえないのだそうだ。
そもそも心の問題だからふとしたことの積み重ねが時間がたって結集するということも多いらしい。
しかし著者はここでもポジティブに考えている。
ゲームを通じて子供は外界から守られた世界を持つことができる。
つまり癒しのよりどころとして作用しているのではないかというのだ。
これはゲームをネガティブに考えるだけでは生まれない考えだ。
もちろんゲームを肯定するための方便だということできるかもしれないが、それはゲーム=悪と考える人たちもまったく逆のことを行っている。

数少ない臨床例から一般論を導くことは到底できない。
それでもゲームが何らかの良い影響を持っているかもしれないという実例は消えることはない。
心の病をもっている子供が生き生きとする様子は、ゲームを通じてであれ、スポーツを通じてであれ、何事にも代えがたい瞬間なのだ
おすすめ度

★★★

今まではゲームに対してて悪いだの良いだの言われてきたことは根拠が乏しいことを軽快に描き出している。
臨床の話はそれだけでも貴重な話題。


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