美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史 紹介・感想 --FF2400-- ゲームのレビュー・紹介
最終更新日 2010年7月
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美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史
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著者:西田宗千佳
出版社:講談社
出版年:2008年
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デジモノに強いジャーナリストの西田宗千佳が執筆をしている。
プレイステーションの父とも称される久多良木健が退任した2007年を一つの区切りとして、プレイステーションの歩みを振り返っている。
もう一つの側面として久多良木健をフィーチャーしているため、ハード開発の話や価格改定などの大きな話題が中心だ。
比較的冷静で中立的な視点で書かれている。
それでも見えてくるのは久多良木健という人物の存在感である。
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●プレステの美学はここにあった
□時代は作るものである
久多良木健は間違いなく時代を作った人間だ。
初代プレイステーション、プレイステーション2はゲーム機のありかたを変えた。
よく何事につけても時代が追いついたとか時代が早かったとか言われるが、この二つについては間違いなく世の中の趨勢を引き寄せた。
それも80年代の半ばからずっと考え続けてきたことを実現してである。
時代が受け入れてくれるのを待つのではなく、世の中を変えてさえしまう。
それがあったからこそ、発売前は売れるとは思えないと言われていた初代や、度肝を抜く互換機能DVD機能を搭載したPS2が一億台以上も売れたのである。
言い方は悪いが「思い込み」のなせるワザであった。
実現できるかは分からないことを久多良木健は曲げずに貫き通し、そして実装した。
うまくいったのかは別としてPS系のハードウェアにはあまりにもたくさんの機能がついているのはそのためだ。
およそ人々の考えつかないところから新たな驚きを提供するのがプレイステーションだった。
□エンジニアとしての血
それにしても久多良木健の自信はどこから来るのだろうか。
私の思うに、エンジニアとして全身全霊をかけた最高傑作だからではないだろうか。
久多良木健は経営の立場にいながら生涯一エンジニアを貫き通している。
名実ともにプレステの父なのである。
しかもエンジニア冥利につきる仕事を止めどもなくやってきた。
一からプロセッサーやアーキテクチャを作った。
コンピュータの心臓部を作る機会など滅多にないので、よほど楽しかったと言えるだろう。
また、自分の作ったコンピュータが世界中で使われるのもこれほどうれしいことはないはずだ。
□一途な思いは届かず
しかしPSBB以降はいまいちふるわなくなってくる。
確かにハードウェアを作ることや時代を作るパワーに溢れた人材であっても、ソフトウェアに関しては専門外だ。
これがPSBBの失敗をもたらした。
また、PSX以降はソニー本体に足を引っ張られるかのようにズルズルと落ちぶれていく。
そこで何があったのかは知るよしもないが、かつてのカリスマは輝きを失っていった。
一途なあまりに大事なものを見逃していたのだ。
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★★★★★
非常に良くまとまっている。
現時点でプレステの歩みを振り返りたいときはこれ一冊で事足りる。
技術的な話題は多いが、わかりやすい文章で書かれているので読みやすい。
著者が地道に取材をした成果がいかんなく発揮されている。