[書評]チョコレートの世界史 

書評とか、漫画評とか、ウェブサイトで公開しないレビューをたまに書いていこうと考えています。

 

チョコレートの世界史 武田尚子著 中公新書

 

チョコレートは美味しい。世界中の人々を魅了する。まさに褐色の宝石である。しかし私たちの手に入るようになってからは100年程度しか経っていない。そこまでは長い道のりがあった。大ざっぱにまとめなおすと以下の通りである。

 

~15世紀:中南米の文明でカカオ豆を使った薬品が飲まれていた

その後、植民地化されるにしたがって、カカオはプランテーションで砂糖とともに栽培される。このとき砂糖とカカオは出会い、ココアが生まれる

ヨーロッパにココアは広がるが、王侯貴族が飲む奢侈品であった

19世紀後半にココアの大量生産体制が整い、一般庶民にも広まる

20世紀に入ると今度はチョコレートの大量消費がはじまる

 

チョコレートを食べられるようになったのはヨーロッパの植民地支配と産業革命が上手く組み合わさった結果だ。本書で著者は産業革命後の生産と消費について力を入れて書いてある。

 

ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』は資本主義の精神がプロテスタントの禁欲性にあると指摘した有名な本である。ウェーバーはその本の中で、クエーカー教徒の禁欲性を指摘しているという。なんとイギリスのカカオ・チョコレートの産業の中心を担った産業資本家はクエーカー教徒が中心であった。

 

著者はその中の一つ、ロウントリー社を中心に、クエーカー教徒特有の「真面目さ」を述べていく。従業員の教育に熱心であったこと、20世紀に大企業となったときは週休二日制の採用を行ったこと。社会的活動に取り組むロウントリー社はきわめて「人間的な」企業だったといえるだろう。

 

こうして生産体制が整ったココアやチョコレート。次は消費を拡大するための広告をロウントリー社は打ち出してゆく。最初は豊富な栄養を押し出した使い方を宣伝する。子供が母親に作ってもらったり、男性が力を付けるための飲み物・食べ物として。後に男性から女性への贈り物路線も開拓する。そして誰もが知っている『キットカット』が生まれる。

 

キットカットは当初、朝食や小腹が空いたときに食べるものとして宣伝された。後に時間が空いたときに手軽に食べる面が強調されていく。これはファミリーで食べるものから、個人で携帯するお菓子への変遷を意味していた。ここで本書は終わる。

 

カカオ(チョコレート)は王族が食べるようなものだったが、時代が下るにつれてヨーロッパへ広まり、一般庶民も食せるようになってきた。家族で食べるのも良いし、一人で食べても良い。探検や冒険にかかせないアイテムとして、また戦争の従事するときの強壮剤としても使われる。時を選ばす一口でさくっと食べるキットカットも誕生した。カカオは長い旅を経て、チョコレートへと変わり、私たちの身近なお菓子となったのだ。

 

 受験の季節になるとキットカットが売れるという。語呂合わせで「きっと勝つ」からだとか。そんなキットカットをほおばって長い長いチョコレートの旅路を想像しながら本書を読んでみるのはいかがであろうか。青いラッピングのキットカットなど、貴重な写真も多数収録されている。